10stake 消えたユウシ
ユウシからの不可思議な呼び出しに加え、突然僕らの溜まり場でもある喫茶店に現れた森田さん。
そしてその後に現れたまさかの人物に、僕らは驚きを隠さずにいた。
「お久しぶりです、ベルさん。キドケンさん」
僕らの前に立っていたのは、三ヶ月近く前に僕らの前から姿を消してしまった花守くんであった。
「は、花守さん!」
僕よりも先に声をあげたのはキドケンさんの方だった。
「花守さん! 今までホンマにどこで何をやっとったんすか!? 私やユウシさん……それに、それにベルさんも、みんな、みんな心配しとったんすよ!?」
思わず立ち上がり、そう声を荒げるキドケンさんのその問いかけに対し、
「……とても……とても、情けないようなことばかりしていました」
と、俯いて苦虫を噛み潰した様な表情で花守くんはそう答える。
「まあまあキドケンくん、そう興奮せずに。花守くんもとりあえず座りいや。そんでゆっくり話そか」
森田さんの嗜める言葉にキドケンさんも花守くんも頷き、花守くんもテーブル席の椅子へと座り込んだ。
「……花守くん」
僕は気まずそうにその名を呼ぶ。
「……ベルさん。お元気そうで何よりです」
「……そういう花守くんは、ちょっと顔色が悪そうやね」
僕の返しは皮肉などではなく、彼の目の下には大きなクマが出来ているせいか、顔色が悪いように見えたのである。
「そう、ですね……」
僕は彼の身に一体何があったのか、非常に気になった。
だがその前に。
「花守くん。まずは僕の方から謝らせてほしい。あの時はホンマにすみませんでした」
そう言って僕はひたいをテーブルの上につけるように頭を下げた。
これが、花守くんに会えたなら、いの一番にすべきことだと思っていたからだ。
「僕はあの時、自分のミスを認めることが出来ず、自分こそが正しいと思ってルールを破ってしまった。弁解のしようもなく、紛れもなく僕が悪かったです。ホンマに、ホンマに申し訳なかったです」
僕はこれまで自分の中で溜め込んでいた不愉快なものを吐き出すが如く、花守くんに深く深く謝罪をした。
「……ベルさん、頭をあげてください。謝らなければならないのはボクの方です。本当にすみませんでした」
花守くんも僕と同じように頭を下げる。
そして花守くんはあの時の心情を、包み隠さず話し始めてくれた。
――僕と花守くんのシーカーズベットの結果がそぐわなかったあの日。
結果は花守くんのシーカーの方が正確だったが、不明カードの結果により賭け自体は僕が勝ってしまった。
その時、花守くんは「思考回路が完全に焼き付いてしまった」と歯を食いしばるように告げた。
「……元々、ボクは自分の運気がとても悪いと自負しています。基本的に運任せの賭け事やゲームではロクな結果になりません。だからこそ、運の要素を限りなく排除したギャンブルは何かないかと試行錯誤してきました。結果行き着いたのが……」
僕らはすぐに察する。
「バカラやな」
そう答えたのは森田さん。
「……そして例のアレっすね?」
そう続けたのはキドケンさんだった。
アレとは『シーカーズベット』の事だ。
この場では森田さんだけはその事を知らないはずなので、あえてそれ以上僕らは言わないように注意する。
森田さんは技に関する事情を知っているのか知らないのか不明だが、何かを察して瞳を閉じ、この場は押し黙った。
そしてこくん、と頷いた花守くんは少し間を空けて再び語り始める。
――あの時。
花守くんも自分のシーカーに絶対の自信を持っていた。
しかし僕のシーカーの結果とそぐわなかった事に若干の苛立ちを覚えた。
何故ならそれは、僕に対して嫉妬していたからだという。
それというのも、僕のシーカーズベットの飲み込みの速さ、度胸、多岐に渡る才能、そして話術による他者へのコミュニケーションの高さなどに対し、少しずつ嫉妬心が芽生え始めてしまっていたらしい。
初めてユウシに話しかけたり、カジノ店内でのコミュニケーションを円滑に図ろうと動いていた花守くんではあるが、現にユウシや他のお客さんたちとスムーズに、かつ親睦を深め仲良くなっていく速度は明らかに僕の方が多かった。
花守くんから見て僕は麻雀も強く多才であるのに対し、自分にはシーカーズベットくらいしか誇れるものがないと不安になり始めていたのだという。
そしてあの時。
シーカーの結果では花守くんが勝っていたが、運という要素で完全に僕に負けてしまった事で頭に血が昇ってしまった。
彼の誇れるシーカーでは僕に勝てたが、運というどうしようもない要素がそこでも立ち塞がってしまった事に、やり場のない怒りが沸騰し、感情が焼けてしまったのだ。
だからあの場から逃げるように立ち去り、そしてもう二度と僕とは関わらないようにしようと決めたのだとか。
「……こんなこと、女々しいかもしれませんがボクにはベルさんが眩しすぎたんです。何をやらせてもボクよりも早く、ボクよりも上手くこなしていってしまう。このままベルさんと居たら、ボクはボクでいられないような気がしてしまった」
花守くんの懺悔にも近い告白を、僕らはじっと聞き入る。
「だからボクは……昔のボクに戻ろうと思いました」
「……どういうことすか?」
昔の花守くん、という言葉に僕は疑問符を打つ。
「ボクは大学時代の水上静留の件から、他者とは距離を置くようになっていました。なのでプライベートで遊ぶ友人というのはほとんどいなかった。いえ、作らなかったんです」
そう言われて僕はハッと思い出す。
いつだったか、花守くんは僕みたいな友達が出来て嬉しいと言っていた。
あの時はそんな大袈裟な、と思っていたのだが、今これを聞いてその意味が少しわかった気がする。
「でも、それでええと思ってました。ギャンブルで……バカラで食っていくには、他人を食い物にするくらいじゃなきゃ駄目だと。友人なんかを作って心の隙なんか生んでしまえばきっと、足元をすくわれてしまうと」
言われてみれば、彼は確かに他者との線引きをしっかりしている傾向が見受けられる。
だからこそ、ユウシも花守くんより僕と一緒にいて遊ぶ方を選んだのかもしれない。
「……でも水上静留の件でベルさんを頼らないわけにいかなくなりました」
僕はそれを聞いてどうしても聞きたいことが出来てしまった。
「……つまり僕は、ただ利用されただけ、っちゅーことっすか?」
僕は花守くんの目を見据えてそう問いかける。
しかしその僕の問いかけに彼は首を横に振り、
「それは違います。ベルさんは本当に気を許せるボクの友達でした。そして……友達でありライバルでもありたいと思ってました。いつまでもベルさんたちの隣で歩けるような存在でありたいと」
僕は黙って彼の言葉の続きを聞き入る。
「ベルさんやキドケンさん、ユウシさんたちと仲良くなって、毎日が楽しくなっていました。麻雀もベルさんのおかげで強くなっていきましたし。だから、今度こそちゃんとした交友関係を築きたいと思っていたんです」
その言葉を聞いて、
「せやったんすか。せやから花守さん、私と遊ぶ時もなんかよそよそしいというか……でも、うん、なるほど。色々と遠慮してはったんすね?」
と、キドケンさんが返した。どうやらキドケンさんも同じことを感じていたらしい。
「……はい、すみません。キドケンさんとこんなに仲良くなれたのも、ベルさんがきっかけだと思います。ボクは基本的に誰かと飲みに行ったりとか、あまりしなかったので」
僕は花守くんのことを全く理解していなかったのだと思い知らされる。
「ベルさんたちとの日々が楽しくて……。なのに、あんな風にボクのワガママで感情を剥き出しにしてしまった自分が許せなくて……だから、だからボクは以前のボクに戻ろうと思ったんです……。孤独なボクに……」
なんてことだ。
僕は言葉が出なかった。
花守くんがそんな風に考えていたなんて、これっぽっちも気づかなかった。
むしろ僕の方が、彼には憧れすら抱いていたはずなのに。
「ボクの幼稚なプライドが……こんな結果を生んでしまったんです。本当に申し訳ありませんでした」
そして再び、花守くんは深くお辞儀をした。
「そんなことッ!!」
僕は彼の切実な謝罪に思わず声を荒げ、
「そんなことないっすわ! 花守くんの方が僕なんかの何倍も凄い! 常に冷静で、綿密で、そして周囲の洞察を欠かさず、先見性もある。僕の方こそ、花守くんに憧れていたんすよッ!」
その場から立ち上がって彼への思いを吐き出した。
「僕の方がガキだったんです。花守くんに負けたくないって思いが強くなって……だからあの時、僕も自分の傲慢さを貫いてしまった……ホンマにすんません……ッ」
僕らは同じ思いを持つ者同士だった。
憧れを抱き、そしていつしか超えたいと思えるような目標になっていたのだ。
それは僕だけでなく、花守くんも全く同じだったというだけの話なのだ。
「ベルさん。もう謝り合うのはやめましょう。むしろ、また共に歩んでもらえたらボクはそれが何よりの望みです」
「そんなの、僕の方こそよろしくお願いします!」
こうして僕たちは互いを許し合い、そして握手して和解したのだった。
●○●○●
その後、花守くんはまだ話さなければならないことがあると神妙な顔つきで僕らに告げる。
そして彼は語ってくれた。
僕と仲違いしたのち、それからどうしていたのかを。
「……そっちの方が割と今回、深刻な話や」
花守くんのこれまでの行動を聞いて、まず森田さんがそう呟いた。
その森田さんの言葉通りだと僕も思った。
花守くんが僕らの前から失踪した理由。
それは、軍資金調達の為だったのである。
その軍資金とは大きな事業を始めるための初期費用で、少なくとも何千万円という財源が欲しかったのだとか。
その軍資金集めを提案したのが、
「まさか……木村さんが……!?」
僕は驚きつつその名をあげた。
軍資金集めの提案を花守くんに持ちかけたのは他でもない、僕と花守くんの師であり、『シーカーズベット』の考案者でもあるあの木村さんだったのだ。
元々以前より花守くんは、木村さんが事業を起こしたがっているという話をそれとなく聞いていたらしく、僕と仲違いをした数日後、ちょうどそれを本格始動したいという連絡を木村さんから受けたらしい。
花守くんも悩んだが、僕との件もありいつまでもこの繁華街には居辛いと思い、その木村さんの提案に乗ったのだという。
軍資金集めの手段は言わずもがな、バカラだ。
花守くんと木村さんは資金集めを効率良く行なう為に、それぞれ別の場所(別の闇カジノ)で『シーカーズベット』を行なうことにした。
始めのうちは順風満帆に稼ぎ、そしてお互い稼いだ金を現金で共同のダイヤル式金庫に貯めていった。
しかしとある日。
花守くんが金庫内の金の増え方の奇妙さに気づく。
花守くんは木村さんから申し渡された約定通り、一晩で五万円程度の勝ちで抑えていた。
そしてその中から生活費を二万円だけ抜き、三万円分を金庫に入れていたのだが、とある日、金庫内の金が妙に多くなっていることに気づいたのだ。
それを木村さんに尋ねると彼は、一晩でいくつかのバカラ屋を巡っているので十万から十五万円くらいは稼げるんだと言っていた。
確かに木村さんのルールではひとつのカジノで一晩に対し五万円まで、だったのでカジノをハシゴすればそれは問題がない、らしい。
そういう事ならと花守くんも二店舗ほどのバカラ屋を巡ることにした。
しかしそれから更にしばらく経った頃。
金庫内の金は更に加速度的に増えていた。
数万、数十万ではなく、帯で包まれた札束があからさまに増えていたのである。
これを怪しく感じた花守くんが木村さんに問い詰めたところ彼は、
「ちまちまと稼いでいては埒が開かない。もう本気でぶっこ抜く事に決めた」
と突然勝手な事を言い始めたのである。
花守くんも、そんな事をしては出禁になってしまうんじゃないかと木村さんに更に問い詰めると、
「出禁にされたらされたでええ。それよりも時間がもったいないやろ」
と、やや不機嫌な口調でそう言われてしまったらしい。
それから木村さんはあちこちのカジノで出禁になっていった。
花守くんはそんな事をしたくなかったが、ある日木村さんから、
「お前もカジノを出禁になるまで一気にぶっこ抜け」
と、命じられてしまったらしい。
木村さんの言う事は絶対だった花守くんは、その命令に逆らう事など出来ず、言われた通り花守くんも各地の闇カジノで出禁になるまでお金を稼ぐ行為を繰り返した。
ひとしきりその区域にある闇カジノを食い尽くしたら、今度は車で県を跨いで別の街でそれを繰り返していったのだという。
「……ボクは木村さんが本格的にバカラで資金集めをすると言われた時、嫌な予感がしていました。なので、ボクの地元の闇カジノにはあまり近寄らないようにしていたんです」
だから彼は僕らの前から姿を消したのだ。
最初、木村さんにこの繁華街とは違う場所で資金集めをしようと提案したのは花守くんだった。
花守くんも木村さんもこの繁華街は地元だ。
いざという時の隠れ蓑にしたり、帰ってくる場所でなければならないという事もあって、地元から離れてこれらの行為を行なう事に、木村さんも賛成してくれたのだけは救いだったと花守くんは話した。
「おかげでここら一帯の闇カジノではまだボクは出禁にはなっていません」
「……花守くん、木村さんはどうなったんすか?」
僕は一番気に掛かっていた事を尋ねる。
「彼は今、関東方面へ逃げました……」
「「逃げた!?」」
花守くんの言葉に僕とキドケンさんが声を揃える。
「……情けない話ですが、ボクは利用されるだけされて、木村さんに逃げられてしまったんです」
花守くんは悔しそうな表情で教えてくれた。
関西のここら一帯で荒稼ぎを終えたのち、木村さんは花守くんの目を盗んで車と金庫だけを奪って逃げてしまったらしい。
何故それが関東方面なのかを知り得たのは、花守くんの知人のツテを使って車のナンバーを調べてもらっていたところ、関東圏内でそのナンバーを見つけたという情報を貰っていたからだ。
しかし木村さんも馬鹿ではない。
その車は花守くんに知られている事を警戒したのか、長野県のとある山中に乗り捨ててあったらしい。
それからは完全に行方知れずである。
「ボクはこの数ヶ月、一体何をしていたのかと途方に暮れてしまいました。カジノを出禁になるまで稼いだ巨額のお金はそのほとんどを金庫に入れていた為、ボクの身入りなどほぼ無いようなものでした。それでも木村さんの言葉を信じてしまったボクの愚かさを呪わずにはいられませんでした」
脅威の技『シーカーズベット』を考案し、知的さを窺わせるあの木村さんが、何故このような事をしでかしたのか、今でもにわかには信じ難い。
「……花守くん。木村さんになんて
僕は花守くんに再び尋ねる。
「この軍資金はふたりの金だから、事業を立ち上げて正式に会社になったらボクには代表取締役社長の座を約束する、と言われました。そして皮算用の利益表などを見せつけられました。計算高い木村さんの作ったものに疑う余地などない、と勝手に信じ続けてお金を預けた自分が愚かだったんですけどね……」
僕らは花守くんのその言葉に返す事ができなかった。
「……結果、ボクはこの地に帰ってきた。でも帰ってきてもベルさんたちに合わせる顔がなかった。そんな時、今のベルさんの状況を聞きました」
花守くんのその言葉に、
「まさか……」
と、僕が察しながら森田さんの方を見ると同時に、
「せや。俺が花守くんに話したんや」
ニカっと笑って森田さんが頷く。
「俺がベルくんらに花守くんの噂を話した時があったやろ? あの何日か後にな、俺は偶然街中で花守くんに
花守くんはその日の深夜。
通いつけだったバカラ屋『モンテカルロ』に行こうか悩んでいた。行けば僕と出会ってしまうかもしれないからだ。
バカラ屋なんかでまた出会っても、お互い気まずく無視するような感じになってしまうのではと思った彼は、中々店内へ行けず深夜の繁華街を彷徨いていたらしい。
その時、偶然仕事上がりの森田さんと遭遇した。
森田さんも花守くんのことが気になっていたので、近くのファミレスで話そうという事になった。
そして。
「更にその日、本当に偶然ですがユウシさんにも出会いました」
「「え!? ユウシ!?」」
僕とキドケンさんが声を揃える。
森田さんと花守くんがファミレスに着くと、店内の隅のテーブル席で、見覚えのあるガタイの良い男がポツンとひとりで座っているのが見えた。
それがユウシだった。
偶然出会った三人はその日、夜が明けるまで話し合ったのだという。
「それでな? そのユウシくんから聞いたんや。今、モンテカルロでベルくんが厄介な奴に目ぇつけられとるって話をな」
そしてユウシは森田さんにひとつお願い事を頼んだ。
それは、僕のボディーガードである。
僕から状況を聞いていたユウシは、自分と似たような体格を持つ森田さんに僕のボディーガードを依頼した。それは、バカラ屋『モンテカルロ』内での広山からの嫌がらせなどから僕を守る為である。
「もしかしてそれで最近僕と一緒にバカラ屋に来てくれはったんですか?」
「せやで。ベルくんは美作くんの弟子やろ? ほんなら俺にとっても可愛い後輩みたいなもんや。それに雀荘でいっつも世話になっとるしなあ。困っとるなら守ってやらなアカン思たんや。っちゅーか、最近じゃむしろバカラ屋でも俺の方が世話になっとるけどな!」
かっかっか、と大きな声で森田さんは笑った。
それにしてもまさかユウシがそんな風に僕の事を気に掛けてくれていたなんて。
僕は本当に良い友人に恵まれたなと感慨に
「んでな、ここに花守くんを呼び出したのは俺で、ベルくんらを呼び出してもろたんはその、ユウシくんっちゅーこっちゃ。ユウシくんからの呼び出しならベルくんもキドケンくんも警戒せず来てくれる思たからなあ」
なるほど、そういう事だったのかと納得する。
「とにかく、そんなわけでやな。これからはまた花守くんも仲間に入れてやってな? 彼も随分と悩んどったんやからな」
森田さんの言葉に僕らは笑顔で頷く。
「……本当にありがとうございました、森田さん。それにベルさんとキドケンさんも」
花守くんがまた頭を下げた。
「僕からもお礼を言わせてください。森田さんのおかげで心のモヤモヤが晴れました。ホンマにありがとうございます」
僕もキドケンさんも森田さんへと同じくお礼を告げる。
「かっかっか! ええんやええんや! これで万事解決やな! 残る問題はバカラ屋のあの広山っちゅークソアホやな」
森田さんの言う通りだ。
あの広山の事だ。まだ僕への嫌がらせを続ける事だろう。
だが、森田さんや柿沼さん。それにキドケンさんや花守くん、そしてユウシという心強い仲間が僕にはいる。
彼らと共にいればその内広山も諦めるに違いない。
ひとりの時はなるべく『モンテカルロ』に行かないようにすれば良いだけだ。
僕はそうポジティブに考えた。
「……えっと、それでベルさん。さっきからずっと気になっていたんですが」
花守くんが話を変えて、周囲をキョロキョロと見回す。
「そうや。俺も気になっとったんや」
森田さんの言葉に花守くんが「ですよね」と言って頷く。
「ん? 一体なんすか?」
僕が尋ねると、
「ユウシさんはどうされたんですか?」
「せやで。ユウシくん、一体いつになったら来るんや?」
花守くんと森田さんが妙な事を言い出した。
「「……え?」」
僕とキドケンさんが声を揃えて目を丸くした。
「ユウシくんからな、自分もすぐにここに合流するから、先に花守くんの事情説明しといてくれ、言われたんや。でもまだ来ぃへんけど、どないしたんや?」
森田さんも花守くんもユウシは来るものだと思い込んでいたようだ。
むしろそれは僕らも同じだった。
「なんか妙っすねえ。ベルさん、ユウシさんに電話してみたらどうっすか?」
キドケンさんの言葉に僕は頷き、すぐに携帯電話を取り出してユウシへと電話をかけた。
「……ダメや。コールはするけど、出る気配はないで」
一体何があったというのだろうか。
「なんか急用でも出来たんかもしれへんなあ」
森田さんはそう言った。
ユウシの最近の動向の変化。
深夜のファミレスにひとりで佇んでいた事。
そして来ると言っていたはずのこの場に来ず、電話にも出ない。
僕にはこれらの事が非常に気に掛かり、胸騒ぎを覚えずにいられなかった。
そしてこれがキッカケとなり、僕はとてつもない事件に巻き込まれてしまうなど、今はまだ予想だにしていなかったのだった……。
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