第2話 糸は絡むもの
昨日に引き続き図書室に来ていた。冷房の節約にもなるし本もある。家にいるより静かだから本に興味が薄い学校に通っているとこういうところに自分勝手な都合の良さを感じる。司書さんには悪いけどね。
するとガラガラと扉が開く音がする。
「やぁ、君尋くん!読んでるかい?」
「飲み屋のおじさんかよ」
つい突っ込んでしまった。これでは白木さんが調子に乗って話を続けることが出来てしまう。
「飲み屋のおじさんではないな〜。ベリーベリー可愛い小幸ちゃんだよ!」
クルリとスカートを翻しながら一回転する。ついでにウインクとピースのおまけつき。
人気者の彼女だからこそ出来る行動だな。
ウインクを決めてからジッと此方を見つめてくるが無視して本に視線を落とす。
「何か反応してよー、寂しいじゃん」
不貞腐れた様に頬を膨らませているだろうが無視。
「反応しろ!」
無視し続けたのが気に食わなかったのだろう。座っている僕の耳を上に引っ張る。
「あ、いたっ、痛いって、」
思わず顔を上げて彼女の方を見る。
「やっと反応したね」
お得意のにまぁ〜とした笑顔で佇んでいる。
「一体何?」
「連絡先交換しようと思ってね」
さすが人気者。距離を詰めるのが早い。
「嫌なんだけど」
「何で?」
「君と交換する必要性がないから」
彼女と僕はクラスメイトであって、それ以上でもそれ以下でもない存在だ。それに夏休みまでは一切の関わりが無かったんだ。
友達でもない奴と連絡先を交換する理由がない。
「えー交換しようよー」
「必要ないって言ってる」
「じゃあ、必要を作ればいいんだね!」
彼女は顎に手を当てうーんと唸りながら考える。
「本の感想の言い合いをするのはどう?」
「却下」
「え、即決?!」
嘘でしょ!?と言いたげな表情でいるが、むしろ何故それでいけると思った。
「うー、、ん。あ、緊急でクラスのみんなで話すことになったときのツテとして持っておくとか!」
「いらない」
「いや必要でしょ!」
「いらない」
「君友人いないんだから!持っておきなよ」
友人がいなくて悪かったな。しかし、僕はこれでいい。自分のペースで生活したいからだ。
「何で僕に構うんだよ」
今まで騒がしくしていた白木さんが少し静かになった。
「言ったでしょ。私心中したいって」
真剣な顔で言うでなく笑顔で言うものだからきっと彼女の周りに居て彼女をチヤホヤしている連中に言えば冗談として処理されるだろう。
むしろ彼女はそうなる仕様にしている。
「僕は死にたいわけじゃないから無理だよ」
彼女は笑顔のままだ。
「でも、生きたいわけじゃない」
その通りだ。死ぬ理由もないが生きる理由もない。ただ日常を消費しているだけだが。
「それでも君とは死にたくないね」
「何で?」
「自殺より心中の方が話題性抜群だし、君みたいな人気者ならなおのこと」
「人気者だなんて照れるな〜」
頬を桜色に染める彼女ははたから見ると可愛い。
でも、僕にとっては興味に値しない。
「仕方がない。この手だけはとりたくなかったが」
唇を軽く噛みながら握りこぶしを作る白木さん。
「君尋くんのスマホゲットー!ダメだよ!尻ポケットに入れてたら、凄く取りやすいんだよ」
「いや、普通は取らない。そして返せよ」
「LINE交換してからね〜因みにブロックとか連絡先消したらその度にスマホをとるからね」
僕のスマホを操作しながら言い、終わると手渡しで返してくる。
「これからよろしくね君尋くん」
「僕は君みたいな人気者で変人とはよろしくしたくないよ」
「また明日ねー」
話を聞かずに手を振りながら廊下に出る。
彼女は僕にとっての厄災だ。
地獄の様な日々が始まると思うと明日からの学校にため息が出る。
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