第12話 テスト前こそ図書室
「ここの内容もテストに出すので覚えておいてください」
その台詞と共に授業終了のチャイムが鳴る。
「号令はいいです。お疲れ様でした」
先生はそのまま教室を出て行き、生徒は一気に騒がしくなった。
「あ゛ーっ!やっと終わった!部活もねえし遊びに行こうぜ」
「ねぇ何時のバスで帰る?」
「ごめん、トイレ行ってくるから先に行ってて!」など様々な声が聞こえる。
そんな雑音を耳に入れながら図書室に向かった。えらく珍しく僕よりも先に白木さんがいた。彼女はドアの前で驚いている僕に気づく。
「やっほー。先にやってるよ」
また、飲み屋の様なことをいう白木さんの向かえ側に僕は腰を下ろす。
机の上には勉強道具が出されていた。
「君尋くんは数学得意?私は結構ダメでさ、もし良かったら教えてくれないかな?」
「でも白木さんは数学そんなに悪くないんじゃなかったっけ?むしろ僕の方が順位的に低いはずだけど」
「得意と点数は比例しない場合もあるの」とちょっとむくれた顔で言う。
「それはわかるけど…」
「なら!」
彼女は机に手をつきながら椅子から勢いよく立ち上がる。
「僕も得意ではない」
「そんなぁ〜」
そして椅子に逆戻りした。
「数学は1日目だから嫌でもやんなきゃいけないのに」
不貞腐れながら言う彼女に僕は何となく質問した。
「白木さんは行きたい大学があるの?」
大抵の人間は行きたい大学がある。そのために成績を上げようとするし成績を維持しようとする。中には僕のような人間もいるが彼女はどうなのだろう。
「私は行きたいところないなー考え中だよ」
渋々教科書を開き、勉強し始めようとする彼女が出した答えはそれだった。
「太宰が行った大学とかいいかもね。君尋くんは?」
「僕もないよ。適度に行けるところにするつもりだ」
「君尋くんと同じところでもいいかもね」
「なんで?」
「心中をいつでも気軽にできるように!」
いや、気軽にやっちゃダメでしょ。
「私は諦めないからね」
「……そう」
その後は会話が続かなかった。
二人で静かな図書室の中シャーペンを動かす音だけが聞こえる。途中芯の折れる音や消しゴムで消す音も入ってくるが静かに勉強していることには変わりない。白木さんがここまで静かに他人と過ごしているのは初めて見たかもしれない。彼女は基本周りの人といるし、彼女自身そんなに静かに生活していない。どう見ても陽の人間に見えるのだ。それがたとえ見せかけだとしても毎日演技して元気に振る舞っているのならそれは静かな人間とは言わない。
太宰治も決して静かな人間ではなかった。むしろ騒がしさ全開だったと思う。心中している時点で世間的にも騒がしい人間だった。目立ちたくないと、気にされたくないと思って振る舞った行動がどうしてもカリスマ性溢れるものだったのかもしれない。人を惹きつける人が静かに暮らすことなんてできないものなんだろう。そうしたら、彼女の周りは常に騒がしく過ぎていく。本人が望もうが望むまいが勝手に周りが巻き込んでいく。太宰も女がその気に初めからなっていたから行動に移したのかもしれない。真相は知る由もないが。
「ねぇ君尋くん」
わからない問題でも出てきたんだろうか?
「何?質問?」
「うん。聞きたいことがあるの」
「君尋くんはさ」
「私のこと好き?」
「……………。」
「愛は囁けるんでしょ?囁いてよ…ね?」
彼女に聞こえないように僕は唾を飲み込んだ。
なんであの時あんなことを言ったのだろう。キスされた動揺で言ってしまったのだろうか。それとも僕は自分が思っているよりも軽い男だったのだろうか。
「そんなに考え込むこと?自分で言ったのに?」
「それともまた、キスが欲しいの?」
彼女は湿っぽく艶やかに笑う。
「ねぇ、キスしてあげようか」
一息置いて彼女は顔を近づけ………
「なーんてね!嘘だよ!全て。息抜きで揶揄いたくなっただけ」
今までの空気を全てぶっ壊してなかったことにする。
「やっぱり君は最高だよ君尋くん」
「ねぇ、あの時の言葉なかったことにしていいよ。愛なんて囁かなくていい。私と付き合わなくていい。だから私と心中して?」
「……心中はごめんだよ」
「残念振られちゃった。じゃあここの問題教えて!」
「急に話を変える白木さんについていくので僕は精一杯だよ」
「頑張れ旦那!」
「飲み屋の店長は仕事に戻ってください」
「はーい」
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