第11話 私は貪欲
君尋くんに会ってから私はどんどん貪欲になっていく。
夏休みの図書館で彼に会った時は私自身の社交辞令のようなものだった。人気者がクラスメイトを見つけておいて無視をするなんて私の評価が揺らぐ。嫌でも行きたくなくても人に指を指される方が怖い私に選択はない。
話しかけた私にめんどくさそうな顔をした。人気者を嫌う人たちは一定層いる。だからそんな顔をされるのも慣れている。しかし彼はそんなタイプではない。ないはず…だ。
「おーい?聞いてる?聞こえてる?雀宮君尋くん?」
「...聞こえてる」
「そっか!で、君尋くんは何やってるの?」
図書館に来ているのだから本を探しているに決まっている。でも、当たり障りのないことを言うのは人付き合いの基本だ。
「本探しだよ」
やっぱり。あたりまえだ。そりゃそうだよ。
「やっぱりかー、普段はどういう本を読むの?」
「ミステリー」
「そっか、今もミステリーを探してるの?」
「いや、今は文学系のやつを探してる」
「気分転換?」
「うん」
会話が止まる。やめて、沈黙は好きじゃない。言葉を出さなければいけない。でも、何も出てこない。お願い。何か言って、会話を続けてよ。
「...白木さんは何でここに居るの?」
助かった、ありがとう。会話が続くことにこの上ない安心感を覚える。こういう時は”白木小雪”のキャラではテンションを上げて会話をしないと。
「よくぞ聞いてくれました!実は夏休みの課題が終わってなくてやりに来たの」
「あ、あと、白木さんじゃなくて小幸で良いよ。クラスの皆もそう読んでるし私も雀宮くんを君尋くんって読んでるしね」
「君尋くん。この本はどうかな?」
きっと私は疲れていたのだろう。じゃないとこんなこと言わない。きっと終わらせてほしかった。全くといっていいほど関わりのない彼だからこそ言えた。
「これをお薦めした理由はね、私を知ってもらおうと思って」
初めて人間失格を読んだ時直感で私だと思った。誰もわからない私と同じだと。理解者に会えた気がしたのだ。
「私、心中相手を探してるの」
誰も他人を完璧に理解することなんてできない。太宰も理解されなかったことの方が多い。なら私だって理解はされないだろう。それは仕方がないこと。それでも疲れた私は誰かに寄り添ってもらいたかった。
バカなことを言っているだろうな。
「嗚呼確かに。でも、重要なのは心中の定義の話じゃない。何故君がそんな話をするかだ」
でも君なら大丈夫。
「そんなの死にたいからに決まってるでしょ。それよりも、その本、折角お薦めしたんだから読んでよね」
君尋くんならここまで落ちてくれるはずだ。
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