第10話 あの時は

 僕は昼頃に目が覚めた。うちはご飯に我関せずという形だから朝ご飯で起こされるということはないし、土曜日は親が仕事のためゆっくり静かに昼まで寝れるということだ。

 ベットでそのままグダグダと寝っ転がりながらスマホを弄っているとお腹からグゥーと音がする。胃の中が空なのが分かる。食欲に負けベットから降りてキッチンに行く。冷蔵庫には昨日の残りも入ってないため卵かけご飯にして空腹を満たすことにした。ご飯を盛り、卵と醤油をかける。ネギも入れるか迷ったが切るのがめんどくさくて諦めることにした。

 スマホでYouTubeの動画を適当に見ながら食べ、皿と箸を流しに置いて部屋に帰る。

 部屋に戻ってもやることがない僕はスマホで最近流行りの音楽を流しながらプログラミングの参考書を開く。将来プログラマーになりたいとかではないがネット時代の世の中で少しでも知識として入れておいたほうがいいかなという軽い気持ちだ。

 一応進学校である、うちの高校では頭のいい生徒がいる。一部の生徒は受験のために頑張って勉強しているが僕は違う。将来のためと勉強はするし参考書も見てるが多くの熱量を持っているわけではない。”将来”という漠然な何かを一人前に気にしていますと、いもしない誰かにアピールしているだけだ。もし、誰かがいたとしてもそいつは僕のことなんて気にもしないだろう。他人の将来なんて気にしても自分に何の利益も出ないのだ。

 そう考えると白木さんなんて真逆のことをしている。他人の将来を気にすることどころか壊していく気しかない。自殺なら勝手にすればいいと言える。だって彼女と僕の始まりはただのクラスメイトで友達ですらない赤の他人なんだから。

 心中が夢の彼女には悪いが今のところ彼女のために死のうとまでは思えない。将来に白木さんのいうような絶望があるわけでもない。彼女を愛しているわけでもない。クラスメイトから愛人?のようなものというランクアップ?はしたが半分脅されたようなものでもある。もう半分はいいようにしてやられた感じだ。

 キスされた時にビッチだったのか?と一瞬思った。でも、そんな考えは一瞬にして消えた。触れた唇が震えていた。初めてだったのかもしれない、もう戻れないという覚悟の表れだったのかもしれない。

 その覚悟に対して失礼な選択をしたかもしれない。

 ああ、でも、僕は自分の気持ちに嘘をつけるほど器用ではない。その上彼女と付き合うほどの度胸もない。まず、ほぼ現状を彼女のせいにしている男が恋人なんてそれこそ人間失格なのでは?

 思考がグルグルする。やめよう。勉強もできない。

 僕のあの選択は空気に呑まれた。そういうことだ。

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