第9話 何も変わらない

 学校に行って、授業を受けて、図書室で本を読む。

 白木さんとキスしたって僕の日常の何かが変わることは全くない。白木さんも僕との関係のことは何も言ってない為、芸能人が結婚したかのような騒ぎが起こることもない。

 白木さんはしつこく図書室に来て僕を心中に誘うえ太宰治の話を満足するまで語って帰る。全くもって自分勝手なオタクと化した気がする。

「でね、君尋くん。太宰は人間失格もいいげど道化の華も鬱々としていて太宰の性格が感じられる作品でね」

 白木さんはオタク特有の語り出すと止まらない早口で僕に話しかけてくる。

「あとね、パンドラの匣も面白くてね。あの誰かの怪談話をリアルタイムで聞いているかのような感覚が好きでさ!」

「リアルタイムで聞いているよかリアルタイムで読んでいるんだよ」

「あっそれもそうか」

 納得した後時計を見る。

「そろそろ帰りまーす。また来週!」

 彼女はバックを持って手を振りながら帰って行く。

 

 僕も本をカバンに入れ帰り支度をする。基本学校に置き勉してある為中身は筆記用具に手紙を入れるためのファイル、財布、本、検定のテキストぐらいだ。

 歩いて家に帰る僕には荷物は軽ければ軽いほど楽でいい。運動のように体を鍛える必要がないし、いちいち教科書を家に持って帰って予習をするような性格ではない。図書室のドアを開け出て行く。もう九月の下旬になる。そろそろテストの時期は来るのだ。教科書を持って帰るような性格でなくともそろそろカバンに詰めて持って帰らなくてはいけない時期だ。

 カバンが重くなるのと同時に気も重くなっていきそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る