この青春に終止符を打つ

雪片ユウ

プロローグ

「ねぇ、君尋くん。私は思考が太宰治と似ていると思うんだ」


 鎌倉の海、小動崎こゆるがさきの右側にいる。人が立ち入ってはならない断崖絶壁の崖の上。一月下旬の潮風が直に僕らに当たる。潮の匂いに海を感じながら少し肌寒いと身震いする。

 思考が太宰治か。より簡単に言うならば小幸は自分を太宰治だと言いたいのだろう。


「そうだね。君は変人だよ」

「君尋くんや、変人は一寸酷いと思うのだが・・・」


 苦笑いしながら彼女は言う。


「それに、そんなこと言うと君尋くんも変人になるよ」

「確かにね、だって僕は君と」

僕は小幸と

「「心中しようとしているからね」」


 二人の声が重なる。

 波が崖に当たる音が聞こえる。波によって作られた水泡がシュワーと溶けていく音までは聞こえやしないけれど、その水泡の様に僕らはこれから消えていくのだろう。


「君尋くんはさ、何で私と心中してくてるの?」


 不安そうに聞いてくる。否、実際に不安なのだろう。小雪は人より人に敏感で何時も不安そうで何時も他人を恐がっていた。そういう性分なんだろう。

 自分を評価するのは自分じゃない、他人が自分を評価するのだ。

 それを小幸はどこまでも知っている。その為に道化を演じて生活をしていた。

 僕の前以外では。


「愚問だね、小幸だから心中するんだよ」


 控えめに言っても小さい顔、肌白く線の細い身体、美人というよりは可愛いよりの表情。

 小幸からの願い事なら誰もが聞いてあげるだろう。でも、この願い事は僕にしかきけない。

 ひと時だけだとしても、情に流されいるだけだとしても、


「小幸が好きだから心中する」

「君尋くんは優しいね。ありがと」


 小幸は僕に近づきキスをする。僕の為に少し背伸びをして目を瞑ってする小幸が可愛かった。

 嗚呼、だから僕は君から離れられないんだ。

 小幸が不安で僕に言葉で表現させるくせに、君は一度も言葉を使わない。


「本当に小幸はずるい」


 知ってる。そんな微笑を僕に返す。


「ねぇ。私たち、ちゃんと心中できるかな?太宰治みたいに私だけが生き残ったらどうしよう」

「なら鎌倉の海じゃなくて玉川にするべきだったね。そこならきっと二人とも死ねるよ」

「そうかな?でも、太宰治は男だから案外女の私が死んで男の君尋くんが生き残るかもよ」


 ケラケラと笑いながら言った。


「小幸が太宰治なら異性を死なせるから僕が死んで君が生き残ると思うけど」

「違いない」


 僕たちはいつものように歩いて行く。

海なであとーーーーーーーーーーーーーーーー。

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