第6話 一握りの愛

「ずっと前から好きです。付き合ってください」


 なんてテンプレな告白だろうか。

 偶然聞こえてしまったものに対して失礼な感想だがもうちょっとひねった何かなかったのだろうか。


「ごめんね」


 こちらもテンプレ。

そんな返しをした声の主は白木さんだった。

 相変わらずモテる。白木さんは美人だし人気者だから手に入れたくなるのかもしれない。道化だから中身も良く見える。

 こんな完璧な人他にいない。

 何処からか聞えたような気がする声は人に向けて言ったというよりイエスやブッタに言った感じに近かった。


 その後二人がどうなったかは知らない。彼女の色恋沙汰なんて彼女の周りが勝手に騒ぎ立ててくれるから何もしなくとも情報が入ってくる。

 諦めの良い男であれば何事もなく終わるだろう。

 二人に気づかれることなくその場から離れた僕の脳内には数分後何も残ってなかった。



 放課後、いつもと同じように図書室に来た白木さんはこう言った。


「君尋くんは告白されたことある?」


 急に何を言い出すんだ此奴は。


「何?藪から棒に…」


「ある?」


 早く答えろというような圧に押し負ける。


「あるね」


「え、嘘!?」


 失礼な奴だ。


「君から心中相手探してるって言われた」


 白木さんは驚いた顔のまま数秒止まる。


「え、あ、それは違う!!告白違い!」


 動き出した思考ですぐ訂正する。


「その、告白じゃなくて愛の告白」

「心中したいだなんて十分過ぎる愛の告白だと思うけど」


だって、

「結婚するよりタチ悪いよ、離婚するかのように生き返れるわけじゃないんだから」


「それはそうかもしれないけど」


 白木さんは机に顔を伏してしばらくすると少し顔を上げて腕枕しながら言った。


「今日、告白されたの」


 顔を赤らめることなく淡々と言う。


「知ってる」

「え、なんで?!」

「人気者は辛いね」


 その場に居合わせて聞こえたからなんて言うと面倒になる。だから、人気者と言うと白木さんは「あー…」と言いながら納得したようだった。


「昔ね、小幸はきっと男に惚れられるよって言われたことがあるんだ」

 白木さんは語り続ける。

「そんなのただ迷惑なだけなのにって思ってた」

「彼女にとっては褒め言葉だったよ、私にとっては裁判の有罪判決が下った気分だったけど」

「たとえ、惚れられて付き合ったとしてもそれは一握りに消えていく時間でしかないのにね」


 白木さんは永遠の愛がほしいの?


 なんて聞こうとした。でも、それが違うとわかっていて質問するのは意味がない。


「続かないことを知ってるから一瞬で終わらせたいの?それとも続かないからその瞬間を形だけでも不変のものにしたいの?」


 五分間そのくらい待って聞いた答えは


「わからない。でも…」


 その先は続かない。


「………。帰るねバイバイ」


 手を振りながら帰る彼女からはいつもの笑顔はついてなかった。

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