第16話 予定(2)

「次は私から質問いい?」

 そのポーズのまま口角を上げ服を見つめて聞いてくる。

「どうぞ」

「何で、今日は来なかったの?前回と同じように自分に不利になるようなことされるとは思わなかったの?」

 確かにそうだ。自分にとって面倒事を増やされる可能性もあった。

「でも、送られたメッセージに家に突撃される以外の脅しはなかった」

 たとえ、前回の脅しが今回に持ってこられても今ならいい気がしたのに、だいぶ彼女に絆されている気がすると思う。

「それに、僕の住所は知らないと思っていたからその脅しは有って無かったような物だったし、何より」

「何より?」

「僕の今日の予定は本屋に行くことじゃなくて布団と家デートすることだったから」

「つまり私は布団に負けたってことか」

「そういうこと」

「その布団ってやつは私よりいい女なのかい?」

 白木さんが放課後の教室掃除をする男子のような悪ふざけをし始めた。僕はそれに乗る。

「ああ、いい女だよ。いつも疲れている僕を優しく迎え入れ包み込んでくれる」

「ほう、君尋くんは包容力の高い女性が好みなのかいいことを知った」

「安心しな、白木さんにはなれないよ」

「そんな!私の何を知っているというの?!」

 次はめんどくさい女バージョンだ。

「知ってるよ。…だって君は太宰治なんだろ?」

 ほんの少し静寂が走る。

「これは一本取られたな〜」

 次の瞬間彼女は笑った。今までにない無邪気な笑顔で。そしてほんの少し恥ずかしそうに。

 僕にはその顔をした意味が何一つ分かった気がしなかった。

 どこが恥ずかしかったのだろう。

「ほらほら〜そろそろ君も座りなよ〜」

 ソファーの右側を手でポンポン叩く。まるで自分の家かのようにリラックスしている彼女には女としての自覚が足りないと言うべきか、それだけ僕に魅力がないと嘆くべきか悩ませられる。

僕は彼女との間に一人分開けてソファーへ座った。

「ありゃ、少し遠くないかい?もっとピッタリくっついてくれても良いのだよ?」

「……君が危険人物だから嫌だ」

「ええ!!こんなにも可愛い顔して危険人物なの?!」

「危険人物に顔面偏差値は関係ないでしょ」

「それも、そうかも」

「ねえ、テレビつけていい?」

「お好きにどうぞ」

 白木さんはテレビの電源をつけ番組を次々と切り替える。

「ん〜、面白そうなの見つからないんだけど」

 番組表に狙いを切り替え、上から下へと見渡していく。休日の昼下がりに若者が気に入るような番組なんて入っているわけがない。どれを見ても「つまんなそう」と言う声が耳に入る。

「ね、ね、録画とかないの?アニメとかドラマとかバラエティー番組とか」

「母親が録画していた映画があったはず」

「どんなの?」

「ホラーサスペンス」

「最っっっっっっっっ高!」

「テンション高」

「それ見よ!それ」

 どれどれどのやつ?と聞いてくる。

「動く点P」

 すかさず彼女からツッコミが入る。

「それ、ただの数学じゃん!」

「学生のホラーだね」

「C級ホラーかと思ってるけど、思ったより面白い予感」

 決定ボタンを押して映画を見始める。

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この青春に終止符を打つ 雪片ユウ @yukihirayuu

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