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「仕事探してんのか」
「あーまあ、ちょっと」
なんて説明していいのか…突然異世界から召喚されてお金はいただけたけど、王宮で付き人してたら良かったのかな。でもそしたらズルズル甘えちゃって駄目な気がしたんだよ。なんだか、泊まった部屋も玲くんから離されて一人だったしあそこでは邪魔だったんだと思う。怖い気持ち、やっぱりあるけど。
「えっと、友人の付き添い?でここまで来たんですけど…友人のおまけで雇ってもらうのはなんか違うなって…それで」
途方に暮れてた。宿もご飯もどこでどう求めるのかも知らない場所で。そこで、あったんだ。シュロに。
「ならよ。俺と、来ないか」
「シュロ」
「俺は家事が苦手でよ、トワはどうだ?」
「あ…でき、ます。料理、好きで」
両親いるけど共働きでなにかと忙しく、食べたくなったら自分で作って兄弟にも食べさせてた。プロ並みとはいかないけど上手くできると楽しくて気づいたら好きになってた。
「ああ、丁度いいな。俺料理壊滅的なんだ」
「…まじ?」
「うん?」
「あ、ホントに?」
「おーまじだまじ。やってくれたら助かる。勿論別に仕事見つかればそっちやってもいい…が。気も合いそうだし一緒に、来てくれたら」
言いながらシュロの尻尾の先がピコピコ動いてる。来てくれたら、嬉しいってことかな?
…うん。俺も。
「他に何ができるかわからないけど、料理頑張ります」
「……!準備もできたな!行くか、トワ」
差し出した手を握り合って、部屋を出た。
吊り橋効果。と言われればそれもあるかもしれない。でも、このときにはもう先生のことを考えずにいられるくらいシュロといるのが楽しいと思ってた。
外に出るとまず服を買いに広場から少し先へ伸びた商店街に行った。庶民向けの古着から数着選んで買うことにしたんだけど。
「これ、いいんじゃないか。これもトワに似合うぞ!」
「いや予算が」
「俺がトワに合うと思ったんだから俺が払う」
「いやいやダメですってば」
「ウルル」
「シュロ」
喉鳴らしてもダメなものはダメ、です!
「…わかった。じゃあ鞄は俺が買う」
「…鞄だけ、ですね?」
「だけ、だ」
「一つで充分ですからね?」
「わかった一つな」
今俺はシュロが買ってくれた鞄を持って項垂れている。騙された気分で。
「なんで…なんでなんだ…」
魔石を縫い付けて拡張の魔法陣が底に刺繍された庶民には値が張る品である。買った服などはすべてがこの鞄一つに納まった。
「トワ?」
「シュロさん」
「さんはいらな」
「シュ・ロ・さ・ん」
「はい」
「あまりに高額なものを気軽に贈らないでください」
「…ウル」
「シュ・ロ・さぁん?」
「わ、かりました」
手持ちのお金では半額も払えないのでありがたくいただくけれども。宝物として大事にするけれども。
その後タオルとして使う手ぬぐいなど細々したものを雑貨屋で買った。もちろんお手頃価格の店である。
「ここって手芸品もあるんですね」
「本格的なものはまた別の店にあるけどねぃ。たまあに掘り出し物もあるんだよぅ。お前さんの求める品もあるかもねぃ。どうぞゆっくりご覧ねぃ」
皺の多い顔をくちゃっとさせて笑顔のお婆さんが教えてくれた、不揃いな端切れや宝石までいかない小さな石のビーズなど雑多なパーツが適当に放り込まれたかごを覗き込む。
レジンクラフトはできるかわからないけど、小物作りはできるかもと、きれいな白い革紐とビーズ、裁縫道具を購入した。
一度宿に戻り着替える。シュロと似たようなサルエルパンツに軽くボレロみたいに羽織るものを合わせた。斜めに鞄を提げたら完了。シュロさんはカウンターで支払いを済ませている。ここは割り勘にしたかったけど押し切られてしまった。まあ財力では圧倒的にシュロの方が勝ってる。シュロは故郷を出てからずっと稼ぎながら旅をしていたそうで貯金がかなりあるから平気だと言って何でも俺にくれようとして困った。今の俺には返せるものがないし。うーん。あ、でもポケットに入ってたな。レジンのペンデュラム。
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