28

シュロが買ってきてくれたスープにパンを浸して食べたらすぐまた眠くなってくる。

「いいよ、寝てな」

「うん…おやすみ、シュロ…」

「おやすみ、トワ」


ふわふわ心地好い夢を見た。猫科の動物が甘えるときの喉をならす音をずっと聞いていたような。


「う、ん…」

「トワ?」

目が覚めてぐっと伸びをしたらすっきり!

「おはようシュロ!もう大丈夫!」

挨拶したら俺の腹もぎゅろろーんと。ううぅ。

「おう、元気だな…くっ、腹の虫もなっ」

笑い混じりの声に口を尖らせつつもちょっとホッとする。シュロもいつも通りの…涙混じりの声じゃない、低いけど快活な声だ。


「じゃ、今日は俺が料理をするってことで…!」

立ち上がると掛布がはらりと落ちて、素肌が露わになる。そうだった。下着だけで寝てたんだ。あわわ。男同士なんだけど、筋肉のつきにくいうっすい体が恥ずかしくてそーっとしゃがんでベッドの影に隠れる。

「あー、えっとな…悪かった!」

「え」

「実はそのー、トワを寝かせるときに楽な格好にしたほうがいいと思って脱がしたんだけどよ」

気まずそうにしながらシュロが謝る。

「上は緩めるのも簡単だったから良かったが下の方が…よくわかんなくてな、破いちまった。すまん!」

「そ、っかあ…」

先生につながるものだったはずなんだけど、あんまりショックは無かった。どうしてかな、初恋だったのにな。俺って薄情なのかしら。


「トワ…?」

「え?」

「大事なものだったんだろ…?ごめんな」

「全然っ、そんなこと、ないよ?」

「ンな我慢しなくていーって、ほら。」

泣いちまえ。って、シュロに頭を抱えこまれて初めて、自分が泣いてるのに気がついた。なんで…ほんとに制服のことは思い入れなかったのに。

「本当に悪かった。元通りにはできねえかもしれねえけどどうにかすっからさ」

「………っ」

もとには戻れない。

異世界から日本に帰るなんてできるかわからない。ここで生きていく術もまだわからない。それも怖かったけど。今涙が止まらないのは。


俺、失恋したんだ…ってこと。


なんか、考えないようにしてたんだ。自覚して傷つくのが怖くて。でもやっと。終わりにできた気がする…。



しばらく号泣してようやく顔を上げたときにはまぶたが腫れて辛うじて平凡がだいぶ不細工になってたと思う。でもシュロは気にせず頭をぽんとしただけだった。

「あの、ありがとうシュロ」

「なーに言ってんだか。それより顔洗って冷やして来な。ひりひすんだろ、擦るなよ?」

「うん。行ってくる。戻ったらご飯作るから!」

「おう、待ってるぜ」


冷たい水でよく冷やして、ちょっとは見れる顔になって戻った俺ににっと笑ったシュロが鞄を渡してくれる。そこから着替えを出して服を着ると早速キッチンに向かう。初めて使う場所だからちょっと手間取ったけど。

魔石の水道、IHっぽい魔石のコンロ。包丁は普通の鉄製っぽいし鍋もちょっと重いけど見慣れた形状の特別な仕掛けなんてないやつだし。まな板も木製のやつで、いつもの感じでできそう。よし、と腕まくりしてエプロンはなかったなと思う。今度見つけたら買おう。なかったら縫ってみよう。ほとんど直線でできるからね。


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