55

少し離れて待っていた俺と合流したシュロは、街の方から隠すように俺を抱きしめてホッと息をつくとそのまま早足で進む。

「シュロ?」

「シッ。そのまま」

口を噤むとそのまましばらく歩き、街が見えないくらいになると俺とハクトを抱き上げて走り出した。

「シュロ!?どうしたのっ?」

飛ぶように駆けるシュロの腕の中で小声で叫ぶ。

同じように声を潜めながらシュロが告げたことに思わず後ろを振り返りそうになるけどぎゅっと力が入ったシュロの腕に動きを止める。

「後を尾行つけられてる。とりあえず撒いてから里に行く」

「…うん」

胸に抱えたハクトもじっと丸くなって静かにしてる。俺も身体がこわばってる、けど、シュロの獣人の本気の走りだ。大丈夫。


街道に沿って走ったあとで念の為森にちょっと入って更にジグザグ走って、多分一つ山を越えて一晩野宿してから里の方向に戻った。

今度は気配を隠してこっそり歩きだ。

「キュウ、キュキュ?」

「ん、ハクト?」

「ああ。ハクトは隠蔽も使えるみたいだな。念には念を入れてやってもらうか。トワ頼む」

「隠蔽…うん、わかった。ハクトおいで」

今日は足元を跳ねていたハクトを抱っこして額の宝石に魔力を注ぐ。シュロと循環をしていたおかげで扱いに慣れてきてて本当に良かった。スムーズに魔力を与えるとハクトがふわりと一回り大きくなり、目を細めて集中する。

「キュキュッキュウウ!」

仄かな光がハクトの宝石から俺とシュロとハクトの身体を覆うように纏い付く。これで隠蔽になったのかな?

シュロを見れば頷いてるので大丈夫なのだろう。口の前に一本指を立ててるから喋らないほうがいいんだとも思う。俺も頷くことで返し二人と一匹で音を出さないように気をつけて歩いた。




森まで戻って、中心から少しだけずれたところにある大きな岩の下にシュロが手をかける。え、どうすんの。まさか?なんて思ってるうちに岩が持ち上がり下に階段が見えた。思わず口を抑える。ハクトが躊躇いなく飛び込んでいき俺も慌てて後を追うとシュロが階段の途中まで降りてそこから岩を戻していた。

「これでいい」

「だ、大丈夫なの?」

「おう。ここは防音の魔法陣が仕込んであるんだ。まあ使うのは俺も初めてだ。緊急通路だからな」

「キュッキュッ」

「あっハクト急に飛び込んだりして…!」

「っ、トワ!」

ハクトを叱ろうと通路の先の角へ行こうとしたらシュロに腕をつかんで引かれる。余裕のない引き方で痛みに声が漏れそうになった。けど、それより目の前に落ちた瓦礫に息を飲む。もしかしてハクトが鳴いたのは呼んだんじゃなく警戒を促すためだったのか。


「キュウーッ!」

警戒しながら進むと角の先で戦うハクトが見えた。

「ハクトっ」

「魔力譲渡していてよかったな…」

対峙しているのは大型の猿のような魔物だ。膂力がかなりあるようで、腕を振り回しハクトに向かって振り下ろすと岩を削ったような床にヒビが入って瓦礫が飛ぶ。さっき見たのもこれだったんだ。ハクトはすばしっこく避けて魔法のかまいたちで対抗してる。だけど猿の方もなかなかのスピードで決めきれないみたいだ。

なんとか援護したいけど俺は魔力譲渡と回復支援ぐらいしかできないし。どっちも動きが早くて立ち位置がくるくる変わってて下手に手出しすると状況を悪化させそう。シュロの大きな手に肩を抱かれてはっと息をつく。

「シュ、シュロ…」

「落ち着けトワ。大丈夫だゆっくり息して」

一緒になって深呼吸すると余計な力が抜けて冷静さが戻ってくる。改めて戦うハクトを見つめると焦ることはないと気づく。だってハクトは落ち着いている。素早い猿の動きに負けてない。だから俺もよく見て考える。今の俺ができることって何だ?

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