冷たく固いものが頬の下にある。石の床にじかに倒れ込んでいたらしい。気がつくと体中が痛かった。そろっと目を開けて周囲を見ると複数の人影がある。

「これは…」

「何故二人いるんだ!」

「陣はどうなってる!?失敗したのか!」

きらびやかな装飾の多い服をまとった同じ年代に見える人を中心にローブのようなものを頭から被った高齢っぽい人が3人ほど。年齢が読めない感じの背の高い人が一人、最初に目に入った人よりは抑えられているが勲章みたいなものを胸につけ立派そうな身なりをしている。

あと二人腰に長い棒状のものを携えた人がいた。何だか簡易的だけど鋼鎧みたいなものを肩や胴回りに着けてる。もしかしてあの腰にあるのは、剣、なのか?現代日本の高校生には身近にあり得ない存在に恐怖が這い上ってきて、俺は思わず震えた。


「目が覚めたのか…?」

「う…」

震えたのを見咎められたかと思ってビビったけど違った。もう一人倒れている人が俺の後ろにいたようだ。そうっと上半身を起こせば背後にいた子にきらびやかな青年が膝をつくところだった。

「異世界の巫女よ…どうか、我らに慈悲を」

「え…えっと、何か困ってるんですか?」

突然の懇願に戸惑いながらも聞く姿勢を取る子は、俺と同じ学校の制服姿だ。俺の入った高校は式典以外は私服可だが今日は終業式でみんな制服登校だった。そして見覚えのある優しげな下がり眉の顔はおそらくさっき俺を助けようとした子だろう。一緒に落ちてしまったんだな。本当に自殺しようとしてたわけじゃないんだけど申し訳ない気がしてくる。


「ああ…そうなのです。我が国には巫女が必要なのです。どうか私とともに来ていただけませんか」

「…僕に、出来ることなら」

躊躇いは一瞬だった。この子本当に人がいいっていうか。ちょっと心配になるが止める間もなく周りが同調するように盛り上がってしまう。

「おお!やはり巫女はお優しい」

「ありがとうございます。ではこちらへ」

きらびやかな青年に差し出された手を取るとぐっと引き寄せられあの子はあっという間に腕の中へ。

「あ…っ」

「おっと、大丈夫ですか?」

よろめいた体を抱きしめられ頬を染める子。

「は、はい」

「なんて可憐なんだ…」

「えっ」

いやよろめいたのきらびやかな青年か。彼いわく可憐な子に柔らかくも熱い視線を注ぐ。

「あなたのような方が巫女で私はとても幸運だと言ったのです」

「そんな…」

展開が早すぎてついていけないよ俺は。でもとにかく詳しいことを聞かないと。


「あ、あのっ」

「ふん?…何だ」

「えーと、ここどこですか」

さっきの子に対する柔らかさの十分の一もない冷たい視線に心折れそうだけど頑張って聞いた俺エライ!

「ここは王宮だ。巫女を呼び寄せる召喚の儀を行い成功した。だがお前は無関係だろう」

「王子、それは」

あ、きらびやかな青年は王子か。そして俺はどうやら俗に言う巻き込まれ系ってやつかな。

「我ら魔道の徒の歴史書によれば巫女は一国に一人と伝わっております」

「ですが何事にも例外ということもあると」

ローブの一人が肯定するようなことを言うが背の高い人が例外を唱える。

「宰相、この件は私に任せると陛下よりの言葉もある」

お、背の高い年齢不詳な人は宰相か。よく見ると向こうの本で見たエルフみたいに耳が長く尖っている。

「…わかりました。しかしせめて最低限の責任として当面必要になるであろう金銭をお渡しに」

「ああ…適当に渡しておけ。さあ、行きましょう巫女よ」

前半と後半の温度差よ…。

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