大きな窓が円形の広場に面しているのでどんな店かわかりやすい。一つ一つ見て宿らしきところを探したけど窓が見えるところにはなかった。プライバシー保護の為かな。馬車の近くにいるおじさんに仕事中ごめんなさいと声をかけて聞いてみると、宿は広場に向けた窓はないんだと教えてくれた。むしろ窓が見えない建物が宿らしい。もちろん人の視線が気にならない方向に窓はちゃんとあったよ。


「すいません、宿に泊まりたいんですが…」

「あらあら、坊や。ご両親はどこ?一人では危ないわよ」

「いえ、あの、一人で宿泊を」

「まあ家出かしら。だめよ坊や早くお家にお帰りなさい」

「えー俺十六歳…」

「嘘はいけませんよ嘘は」

「はあ…」


俺、平均身長くらいあったはずなんだけど。顔だってイケメンじゃないけど童顔てほど幼くない。…む、もしやあれか欧米では日本人は幼く見えるというやつか!?まじかー。

何軒か回ってみたんだけどやっぱり断られてしまった。よくよく聞けば十六歳は成人扱いらしいのに俺は子供に見られてしまう。このままじゃ夜になっちゃうよ。空を見上げればもう日が傾いてきていた。

お腹は減るし泊まるところはないし、広場のお店はすべて高級店に見えて怖気づいて入れずもたもたしてるうちに夕暮れが迫っている。それに思えば宰相さん、庶民なら2か月のお金って言ってなかったか?ここでお金を使うとすぐ無くなるのでは…。


「よ。元気な腹の虫だな」

はい。悩んでる間もお腹の虫は鳴きっぱなしでしたけどナニか。

笑いをこらえる口調で声をかけられて涙目で睨んでしまったのは不可抗力だと思いたい。

「…ッお前、いや、あー腹減ってるんだろ。そこはレストランだぜ」

振り向いて見るが何やらマントもフードもしっかり被って人相がわからない。声からすると男だろう。

「でも分不相応な気がして」

「気後れすんのか。ああじゃあこっち来いよ」

「え、でも」

「イイトコ、連れてってやるよ」

わしっと手を掴まれて慌てて小走りでついて行く。強引だけど手は痛くない絶妙の加減だ。身長も俺より頭2つ分くらいでかいのに転けるほど早くはない足取りで。どうも、悪い人には思えなかった。


「うっわあー」

ついたのはさっきと同じ円になってる広場なのに、店は屋台や地面に商品を広げた露天でたくさん人がいて賑やかだ。

「な、イイトコだろ。こっちに美味い肉の屋台があるんだ」

人波にはぐれないようにと言って手を繋いだまま案内された店は潔く肉オンリーの焼き串屋で、濃い甘辛な味つけがたっぷりの肉汁と絡み合って最高だった。

「うっま、これうまあー」

「だろ?」

ドヤる声で言った彼もガッツリかぶりつき二口で一本ぺろりと平らげる。何の肉かわからんが結構大きくてよく知ってる焼鳥の3倍はありそうなんですけど。

「相変わらずいい食いっぷりだな」

「あんたこそ。相変わらずいい腕だな」

「ふん。今日は弟と二人かい」

「ああ、初めての王都だからな。ほらよ」

「ちょ…!?」


顔馴染みらしく屋台の店主と軽口を交わしてると思って聞き流しつつ口に入りきらない肉をかじるのに四苦八苦してたら流れるように奢られてしまった。しかもいつの間にか弟になっとる。いや明らか俺のほうが小さいとしても!

「あのっお金、払います…!」

「いらん。子供は大人しく奢られろ」

「く…っ、あんたもか…!俺、十六歳!」

「はぁ?嘘だろ?いや、!?本当に…?」

辛うじて見えた目は見極めるように細められ次に大きく見開かれる。青い虹彩に瞳孔は黒。綺麗な目だ。もしかして鑑定かな?でもわかってもらえたようでちょっとホッとした。

「あーその…悪かったな。ガキ扱いしてよ」

「いえ。あんたに比べれば、ね」

やさぐれてしまうのも年頃の男の子としては如何ともし難いわけよ。

「いや、まあ、伸びしろありってことだろ!」

「はあ、もういいっす。それよりお金」

「そりゃ詫び代ってことで、な」

「むー…」


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