9
キーホルダーを鍵から外して白い革紐をつけて端にさっき雑貨屋で買ったビーズの黒い珠をつけたら出来上がりだ。
俺がレジンで作った薄い水色のグラデーションの中にシュワシュワの気泡が浮かんでる。レース模様みたいなキャップをつけて丸カンに繋げてたから、そこに紐を通したのでこれでペンダントとして使えるはずだ。
「トワ、着替え終わったか」
「シュロ。終わったよ、どうぞ」
「ん、こっちも終わった」
今度は王都から田舎へまた移動しながら稼ぐんだって。シュロは狩人みたいなものらしい。
「シュロ。これ、俺が作ったレジンクラフトなんですけど…お礼に」
「れじん?」
「うん、えーと、樹液みたいなものを固めて作る手芸作品なんだけど」
シュロは受け取ったペンダントをしげしげと眺めてふと眉を顰めた。
「…シュロ?」
「これ、魔力を感じるぞ」
「!?で、でもこれ、は」
元の世界で魔法なんてないところで作ったただの、手芸作品…なんですけど。
ぎょっとしてシュロが持ったペンダントをじっと凝視してたら、なんか出た。薄いアクリル板みたいな半透明の板に俺が読める日本語の、説明文。
『異世界人十和田深月が作った魔石のペンデュラム』
げ。
『十和田深月の感謝の心が込められ魔力を宿したレジンクラフト。贈られたシュロに向けられた攻撃を一戦闘につき一度だけ防ぐ。壊れるまでずっと使える。』
半永久的に使える魔道具になってるよ…。
「トワ…やっぱりお前…ようせ、いや」
「シュロ?」
どうしようと困惑してたらシュロが小さな声で何か呟いた。でも聞き返したら首を左右に振る。
「今は、いい。話してもいいと、トワが思ったら、ちゃんと聞く」
「…うん」
困ってる俺を気遣って待ってくれるんだ。
「ありがとう、シュロ」
小さく言った俺の声はシュロの虎耳には聞こえてて、ぴこぴこ動いたけど。シュロは素知らぬフリでペンダントを首から下げる。ちょうどシャツの大きく開いた胸筋の上に来る長さだ。
「似合うか?」
「うん、いい感じ!」
白い肌に水色のレジンがきれいに映えて、シュロはワイルドなのに色味は薄めで綺麗系で、かっこいい。
「気に入ったぜ。ありがとうな」
「お世話になったお礼ですから。でも、喜んでもらえてよかった」
宿を引き払うと広場を商店街と反対方向に抜ける。その先には大きな門があった。王宮の門よりゴツくてでかい。石を切り出して積んだみたいな柱に一枚の大岩みたいな扉だ。今は開かれているけど、有事の際にはしっかり隙間なく閉じるんだろう。
「お、シュロ。ハントか?」
「いや、また別の町だ」
「なに、移動するのか。お前が狩ってくれると楽ができるんだがなあ」
「馬鹿言ってんな。仕事しろよ」
門のそばに小さな詰所があり、近づくとそこから革の服を着たおじさんが出てきた。シュロとは顔見知りのようだ。腰に長い棒を下げてる。兵士とか門番さんかな。
「ああ、ってそっちの子は?誘拐じゃないだろうな」
「ンな訳無えだろ」
「はっはっは、君、ここに手を」
「はっはい」
詰所の片隅に設置された台に石板があって魔法陣みたいな円の真ん中に手形が描かれている。
ちょっとびくついちゃったけどシュロが大丈夫だと言うように頷いたので恐る恐るそこに嵌まるように手のひらをつける。青白い光のラインが手形をスキャンするように下から上へ移動して、魔法陣が光るとそのまま消えた。何事もなく。問題なしってことかな。
「よし、通っていいぞ。良い旅を」
「そっちも。良い一日を」
俺も会釈して、シュロと門をくぐる。
いよいよ外の世界だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます