10
門を出ると馬車や人がまばらに見える。土の上に轍が残って、これが大体の道になっている。
けれど、周りにはポツポツと小さく木が生えているくらいで殆ど見渡す限り、荒野だった。
水の気配が薄い礫砂漠のような。
シュロに言われてフードマントも着けててよかった。風が吹くととたんに砂塵が舞って視界が悪くなる。マントがなければ顔も砂まみれで痛い目にあったと思う。
「トワ、こっちだ。手を」
「うん」
片手で顔をかばいもう片方でシュロの手を握る。おそらく道、という轍を辿り人影がなくなると今度は手を離しシュロが尻尾を絡めた。
「…こっちのほうが両手があく」
「うん、わかった」
もふもふがくすぐったいけどシュロの両手が空いた方が危なくないのだと思う。シュロが狩るのは魔物なんだと聞いたから。
この世界には魔法があり、人には魔力が備わっている。それは人だけでなく他の生き物、動物や植物にもあるらしい。で、植物だとよっぽど強い魔力を持たなきゃ暴れないけど、動物だと弱いのから強いのまで結構暴れるのがいるんだって。その暴れる奴らを魔物と呼び、魔物を狩るのがハンターなんだ。
ちなみに魔植物は薬草になるそうで弱いのは採取対象で強いのは討伐して採取。
ハンターも色々でギルドに所属して町に居るもの、街を渡り歩くもの、旅をしながら時々街に寄るだけのもの…、そしてギルドに所属しない野良ハンターがいる。
シュロは旅をしながら時々街に滞在する方のハンターなんだって。
故郷を出てからしばらくは野良をやってたけどある時大きな怪我をして這々の体で街へ駆け込みギルドに助けられ、それをきっかけにギルドに所属したそうだ。
もう傷はふさがってるけど、獣の爪の形、三本の傷痕が背中にある。って言ってた。シュロにとっては恥ずかしい黒歴史みたいで顔をしかめてたけど。俺は生きててよかったと思った。
今回は南の王都から北の方へ。北の隠れ里に向かうらしい。そこにはシュロみたいに珍しいタイプの目立ちたくない人たちが集まって出来た村があるんだって。稼ぎの一部はいつも里村に寄付してるそうだ。まあ頑固な村長に押し付けて行くんだって言ってたけど、もう第二の故郷なんだろうな。
そこまではかなり距離があるって聞いたから、数日掛けていくつもりで心構えはしてる。
一日目は人にも魔物にも会うこと無く野営場所についた。大きな岩とちょっとした水場のあるところ。ここなら多少風除けがあっていいんだと思う。通る人みんなが使うんだろう。火を起こしたあとが残っていた。
「ここで今夜は寝るんだね」
「ああ、準備しようぜ」
シュロも拡張鞄を持っているのでそこからテントを取り出し、教えてもらいながら二人で設置した。寝場所を整えると次は火熾しだ。
燃やす枝は道々拾ってきたけど、火をつけるのはどうするんだろう?
テントから少し離した地面に燃え滓が少し残る窪みがある。そこに鞄から集めて入れておいた枝を隙間が少し空くように重ねて積む。
「フィーオ・フィアンマ〈火の精よ〉」
シュロが不思議な発音で何か呪文を唱えると小さくぽっと火が点った。
「シュロ、魔法使えるんだ!」
「まあちょっとしたもんだけさ」
そう謙遜するシュロに俺は素直に思ったことをこぼした。
「うーん。魔法全く使えない俺からしたら使えるだけですげーって思うけどなあ」
「使えない…?」
怪訝そうな顔したシュロには気づかず、鞄から携帯食を取り出す。魔物を狩ったら肉を焼いたりする予定だったんだけど今日は出会えなかったので予め買っておいた携帯食だ。
そう。あの焼串の謎肉は魔物肉だったのよ…。まあ美味しかったからいいよな!
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