交代に湯を使った彼が戻ってきたのでそこで話を切り出した。

「遅くなりましたけど俺、十和田深月っていいます。友人にはトワって呼ばれてます」

「ああ。俺はシュロ・ナノ・ティーグレだ。シュロでいい」

「じゃあシュロさん」

「さんはいらねえぞ。なんたって兄弟だからな」

「あー、シュロ?」

「おう」

「今日は本当にお世話になりました。ありがとうございます」

「いや、子供が困ってんの見たら助けんの当たり前…いや、あー」

「もういいっす。なんせ弟ですから?」

「ははっ、そうだな!王都初めてで戸惑ってたように見えたしな」

「あーやっぱりわかります?お上りさん」

「ま、あんだけウロウロしてガックリうなだれてりゃな」

「ううう」


シュロはカシュクールみたいなシャツにダボッとしたサルエルっぽいパンツに黒っぽいふさふさしたベルトを巻き付け、手には手首から肘までくるむ手甲をつけ頭に大きなターバンを結んで端は垂らしている。アラジンみたいだ。胸筋は立派だけど色は白いからもしかして日光が苦手でこの恰好なのかも知れない。外ではマントを羽織っていたし。今はマントは取ってベッドで寛いでいる。

俺もまったりしてリラックスしていた。シュロの傍はなんか落ち着く。体がでかいからか弟扱いされてるからか、不思議だけど。ふぁっとあくびが出た。

「おっ子供はそろそろ寝る時間か。あ~気にせず寝ろ寝ろ。明日もなんなら付き合うからよ、ゆっくり寝ろ」

お礼を言えたかわからないくらい、ストンと俺は眠りに落ちた。



「トワ…か」

探し物も見つからず王都でしばらく稼いだしそろそろ北に寄って帰ろうかと土産なんか見繕いに行く途中でトワを見かけた。黒髪に黒目で黒服の少年は地味に目を引いていた。素行は田舎から初めて都会に出てきたやつそのもので微笑ましいんだが、身なりは悪くないし毛艶もいいんで危なっかしく見えてたな。どっかの悪い輩に狙われるんじゃねえかって感じで目で追ってた。ぐるぐると宿をまわり挙げ句に盛大な腹の虫に項垂れる様子には笑っちまったが。

声をかけたら濡れた大きな目で見上げられどきりとしたがそれだけじゃねえ。微かに風で揺れた髪に一房白いのを見て、雷に打たれたみたいに全身に甘い痺れを感じた。まさかこの子が俺の。


思わず手を掴んじまって焦ったが傷つけないよう柔らかく握って歩いた。後ろをついて歩く存在に胸が熱くなる。ここの一番旨いと思う肉を推めると一生懸命小さな口で頬張って、すげえかわいい。奢るために弟なんて言ったが嘘だ。大事な大事な俺だけの。


俺よりずいぶん小さいから子供とも勘違いしたが本人から十六歳と聞いて驚いた。ここリザインでは成人年齢だ。けど見た目でやはり子供に見られ宿を取れなかったようだ。渡りに船と一緒の部屋に誘ったがトワは何も気づいていないようだった。そのへんはやはり子供なのかもしれない。この国で見たことない黒髪黒目に黄味がかったミルク色の肌、正装だという黒い上下の服。文化も習慣も違うだろう。言葉は通じているが、宿帳は俺が書いた。


何年探した?南から北に行っては戻り十年はとうに過ぎた。俺の唯一。


隣のベッドですうすうと小さな寝息を立てるトワを見つめる。俺が抱きしめたらすっぽり隠れそうな体だ。あどけない寝顔が愛しい。肩から落ちた掛布を上げてやろうとして固まる。

月の光がうっすら照らし出す輪郭。膝を抱えるように丸くなるトワ。揺れる黒髪。何故。


「浮いて…る?」


幼い容姿、浮世離れした素行、珍しい響きの名、まさかと思ったが…トワは、妖精か!?

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