朝日が眩しくて目が覚めた。昨日はそんなに暑く感じなかったけど朝から結構あったかい。大きく伸びをして隣のベッドを見たらまだシュロは寝てるみたいだ。あの綺麗な瞳は閉じられた瞼に隠れて見えない。まつげ長っ。


「あ、ターバン取れて……」

マントは取っていたのにターバンはしたまま寝てたんだから大事なんだろう。少し直そうかと手を伸ばしかけてギクリとした。

崩れたターバンの隙間からのぞく髪はさらさらの白髪でメッシュのように一房が黒く襟足は肩より先へ流れるくらいに長い。ちょっと奇抜だけどパンクバンドの歌手とかこんな髪型してたよーな。そこまではいい。


その、頭の上にふわふわした黒い丸い耳。動物…ケモミミ?に、見える。少し倒れた耳の裏側には白い斑紋があった。これって、確か子虎が母親を見失わないように目印にするとか聞いたことある。て、事は。

「と、ら?」

掠れたつぶやきに反応したのかはっしと手を掴まれて、底光りするような青い目が俺を見ていた。

「あ、し、シュロ、ターバンが…っうわ!」


手品のごとくあっという間に俺は隣のベッドに引きずり込まれていた。勝手に見てしまったから怒ってるのかと硬直している間にギュッと腕の中に閉じ込められてしまう。

「う〜」

「シュロ…?」

けど、怒鳴られるとか詰められるとかじゃなくてなんか…鎖骨辺りにグリグリ額を押し付けてぐるぐる唸ってる。もしかして喉鳴らして…甘えてる?猫みたいでかわいい…だいぶでっかいけど。何ともなければこのままでもいいかなーなんて思ったけど、ターバンで押さえつけてたのにやたらサラサラな髪が首に当たってすごくくすぐったい。ふわふわした柔い耳も。

「ン…っ、ちょ、シュロさ、ッ起きて!」

「ウルル…ん…?」

「ぐりぐり止め、て」

「ッ!?わ、悪い、寝ぼけた!」


なんとか起きたシュロから離れたけど…何かが腰に巻き付いてる。よく見るとこれ黒っぽいけど縞になっててもふっとしてる…あれ?シュロのベルトじゃなかった?確かめるように撫でたらびくっとして離れていった。

「…悪い、俺の尻尾が」

「…尻尾」

シュロは気まずそうに視線を落としてハッとする。崩れて落ちたターバンの布を拾い、改めて俺を見る。

「怖く、ないのか?」

「え?」

「俺が」


なんだかわからず首を傾げるとシュロは神妙な顔をして説明した。

「俺は、獣人だ。ヒトは違うものを恐れ…異端を忌避する」

「違いなんて…人は誰も同じじゃない。あなたはあなた一人だけだ。俺は俺だしあなたはあなただ。それにシュロは理性があるじゃないですか。さっきはちょっと寝ぼけてたみたいだけど、ちゃんと起きて止めてくれたし」

「トワ…」

「さ、支度しましょ。買い物する予定立ててたんですけど、今日も付き合ってくれるんでしょう?

さっとベッドを下りると座ったシュロを見下ろす。せいぜい数センチくらいだけど。くっ、高身長め。足も長っ。

「…ふっ、シュロでいいつったろ」

にっと笑ったシュロには大きな牙があったけど、全然怖くなかった。


着換え荷物をまとめながら改めて教えてくれたシュロは、虎族らしい。しかも珍しい白虎らしくあまり目立ちたくないのだそうだ。でも故郷では仕事が少ないので、王都まで出てきたらしい。仕事、かあ。俺、高校入ったらバイトしようかと思ってたんだよね。でも…先生に会いたくて、放課後も学校に入り浸ってたっけ。なんか、昔のことみたいだ。

「はあ」

「トワ?」

「あ、いや、何でもないっす。仕事、あるかなって…俺あんまり得意なこともなくって」

趣味はレジンクラフトだけど、ここでできるかわからない。仕事になるかもわからないし。

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