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おじいちゃんはまだ畑仕事の続きがあるし俺たちもまだついたばかりだから、夜に村中のみんなを集めて歓迎の宴を開くと言う。それまでは落ち着いて休もうと、シュロがここで暮らしてる住み処へ行くことにした。
「さ、ここが俺の、いやこれからは俺たちのか。まあなんだ新居っつーか住まいってことだな」
「う、うん。お邪魔しま、……ただいま」
「…ふ、おかえり」
一度は王宮の玲くんにも報告にいきたいし、ずっとここに住むかはわからないんだけど。シュロは怪我をしたときマルモでお世話になった後はこちらに住みながらギルドへ通い、慣れてから旅を再開したそうだ。そして番は見つけた。そうすると無理に旅に出る理由ってあんまりないわけで、もしかしたらここが俺とシュロの定住する場所になるかも知れない。
他の家と似たような木造の屋根が藁みたいな植物を積み重ねた家だ。平屋だけど天井は高く広い空間が保たれている。まだ入って座っただけなのにくつろげる感じなのはシュロの家だからかな。
「なぁトワ、温泉の湧く場所行ってみるか?」
「え、良いの?」
「さっき許可はもらっといたし」
いつの間に。でも嬉しい。すぐに荷物をおいて手拭いや着替えだけもってシュロに続いて家を出る。家の裏手の小道を歩いてしばらく、家が小さく見えるくらい離れたところに小さな泉みたいなものがあった。硫黄泉らしく強い臭いが立ち込めている。これはこのままだと体に悪いかも。風で飛ばせば平気かな?
「シュロ、この匂い大丈…夫じゃなさそうだね」
「すまん」
やっぱり獣人にはきついらしい。シュロは手拭いを鼻に押し付けているが涙目だ。
「うーん、風で吹き飛ばせば大丈夫だと思うんだけど」
「キュキュ、キュウー!」
「あっハクト!?」
呟きを拾ったハクトが俺の腕からピョンと飛び降りて、大きく鳴く。ビュッと一瞬風が強く吹いて匂いが消える。湯気と共に充満していた硫黄のガスをハクトが魔力で飛ばしたようだ。
「おお」
「えらいっハクトよくやった!」
ハクトの魔力はすごく強いって訳ではないしこの毛玉姿のままでこんな風の魔法ができるとは知らなかった。俺が魔力を分けると倍?化するけどこのままでもある程度は使えるらしい。
「角ウサギは魔法も使うがここまでってのは聞いたことがない。生まれつき魔力特化だから角は要らなかったのか…」
「キュウ?」
本人、いや本兎はあまり自覚はないみたいだけど。キュッキュと跳ねている様は頼もしいと言うかほほえましいと言うか。
「まあいっか。ハクトはハクト!ね、シュロ」
「…そうな。さあ臭いのはなくなったし今のうちに入ってみるか」
「うん!」
この辺には大きな木がなくてちょっと苦労したけど低木の影で服を脱いで腰に布を巻いた。
「準備できたか?」
「うん…」
シュロも既に腰布一枚だ。ハクトは俺の頭にしがみついて泉を眺めている。二人と一匹で温泉を堪能しようという感じだが、源泉が近いのでシュロが少し掘ったところに水の魔石を使って調整したお湯が流れ込むようにしてみた。瓢箪のようにもうひとつ泉を作ったのだ。
「こっちなら熱すぎないはずだぜ」
「あ、ありがとうシュロ」
なんか勢いで一緒に入ることになったけど昼過ぎ位だから明るいし気がついたらは…恥ずかしい!ハクトもいるんだけど。いつも胸もとはだけてるけど全裸ってさあ………。男の艶みたいなのがむんむんでヤバい。
「足元気を付けろ、ほら手」
「うん…」
掘ったとこが崩れそうでシュロの手を借りたけどちょっとよろけてしまい手どころか腰を支えられる。グッと引かれて抱き止められてホッとしたけどその拍子に布がずれて落ちてしまった。二人ぶん。
「あ…ッ」
布越しでなくふれあった肌に赤面してしまう。ちょっと、反応してたし。二人とも。恥ずかしくてたまらないんだけど一人だけじゃなくて良かったとも思っちゃった。
「…ごめんな、なんもしねえから。…今は」
「ん…」
「宴の準備してるだろーしな、ちっ」
舌打ちしないで。
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