第二章

第二章 過去と現実

いつも通りの時間にスマートフォンに設定したアラームが鳴り響く。独特な電子音が部屋中に鳴り響き、その音にはっ!と瞬時に目が覚める。

 スマートフォンを充電コードから外し、鳴り止まないアラームを止める。スマートフォンのバッテリーは100%。満タンなのを確認し、布団から起き上がる。

 大きく背を伸ばし、両腕も一緒に伸びてリラックスさせると、すぐさまトイレに向かう。トイレは入り口のすぐ側にあり、木製の横スライドドアに軽く手を当て、簡単に開く。

 軽くトイレを済ませたら手を洗い、また木製のドアを開ける。そして、ぼそっとネガティブな発言を吐き出した。


 『今日から本格的に学校かぁ。つまらない…』


 今日のスケジュールはいつも通りのつまらない事の繰り返し。まずは学校へ行き、何も青春を満喫できない時間を過ごして、その後アルバイト。アルバイトはやることは面倒臭いのだが、店の人達は嫌いじゃない。遠真にとっては、実の家族よりいい人達だった。さらにお金がもらえるのだからまだいい。だが、そのお金もある程度しか使えない。だからみんなのように放課後ゲームセンターやどこかの飲食店で過ごしたりできる時間も金もない。この事に嫌気が差している。

 

 『もう行くか…』


 暗い表情と相まって、沈んだ声で吐き出す。

 

 4時間目が終わり、昼食の時間がやってきた。誰とも食べる人はいない。遠真の昼食は午後からオープンする学食の転売屋のパンだ。毎回そこでは、誰かにパンを買いに行かされているパシリの生徒がダッシュですれ違う。それをぶつからないように避ける。

 そして遠真は、そんなに高値もしない学食のパンを2つ程購入し、何もないだけののだだっ広い屋上で一人で食うのがほとんどだ。今日も全くいつもと変わらない場所に向かう。

 4階に屋上があるのだが、3階に向かう最中にあまり人がいない廊下で一人の女子生徒が、遠真が通る階段から偉く汚れた姿で、顔を下に降ろしながら降りてきた。その生徒は遠真の見覚えのある生徒だった。

 はっきりとその人のプロフィールはわからないのだが、身に覚えのあるロングの茶髪に細身の健全性のあるスタイル。パンツが平気で見えてしまうような校則違反ギリギリの高さまでスカートを上げている女子生徒。それは、遠真と現在同じクラスにいる生徒だ。

 遠真は自宅から学校に通う際に購入してた紙パックの牛乳をストローで吸引しながらその人の姿を見た。すると汚れたカッターシャツの女子生徒が遠真と一瞬目が合う。

 遠真と目が合った際に、嫌味のある睨んだ目つきで女子生徒は視線を合わせた。しかし遠真は何も表情を変えなかった。そしてお互い視線を逸らし階段を交差する。

 遠真は何事もなかったかのように4階に向かうが、さっき目があった女子生徒は遠真の事を下から睨んでいる。

 遠真が4階にたどり着くと、そこには相変わらず誰もいなかった。一人である分には全然問題ない遠真は、フェンスに囲まれた屋上にある横長椅子に座り込む。

 3年になってもこんな感じ。かつては学級委員やら副委員長というのを頼まれていたことがあったため、休み時間は教師の手伝いやらで屋上に行って食事をするなんてことは少なかったが、まだ学級委員など決まってないので、自由なままだ。だが、遠真は以前担任に言われた言葉が頭の中にこびりついていた。


『また学級委員かなぁ…』


 嫌なことをぼそっと吐くだけで更にネガティブな感情が湧き立ってくる。口にしたくない筈なのについ出てしまう。黙って良い事を言えば良い事が来るのか?そんな事を疑問に思いながら、天を見上げ雲が少ない青空を眺めていた。


 学校が無事終わり、つまらない時間を過ごした今日を軽くため息を漏らした遠真は、カバンを手に取った。他の生徒が先生のいない所で『今日いつものゲーセンな』と友達に約束しているのをスルーし、アルバイトに向かう。


 『バイトまで時間があるなぁ。ゆっくり向かうとするか』


新しいクラスになったからと言って、いつもと同じ時間を過ごしていると、なんだかタイムリープをしているのではないか?と錯覚を起こしそうになっている。その考えをふと思考に巡らせながら帰りの門から出る。

 そのまま歩いて数分で着くアルバイト先に向かう。スマートフォンを開くと全然目的地に時間があるためどこか寄り道したくなってきた。と言っても、学校からバイト先の間にコンビニなどなく、あるとしたらただ真っ直ぐにあるだけの道路にドリンクの自動販売機があるくらいだ。今自動販売機には用はない。遠真は向かいながら軽くスマホゲームをする事にした。

 しばらく歩いていると後ろから誰かがいるのがわかった。歩行の邪魔になると思い、背後を確認しようとする。そこにいたのは、昼に汚れた姿の階段ですれ違った同級生の女子生徒だった。

 しばらく見ていると、また目があった。そしてまた向かうから睨んできた。だが、階段で出会った時と違ってそんなに厳つい目つきではない。

 遠真はまた嫌な目つきをされたと感じ、視線を前にやる。そしてスマホゲームに目を向けた。


 −−−なんなんだよ、あの子。俺なんか変なことしたのか?−−−


余計な事を考えないと、遠真はスマホゲームに思考を集中させた。そして、イベントガチャを回す。すると、ガチャから大当たりの演出が出てきた。


 『うん?おっ!来た!さぁ来い!』


 側から見たら独り言をブツブツ言ってるような、ちょっと危ない人のように見えるかもしれないが、遠真は気にせずゲームに集中する。そして出てきたのは、遠真が狙ってたキャラクターではないが、まぁまぁな当たりの

キャラクターだった。


 『あぁ…。まぁいっか』


 ぼそっと呟くと、遠真の横をあの女子生徒が通り過ぎて行った。何も言わず早歩きで前を歩いている。だんだんと距離が空いたのを見てまた遠真はぼそっと呟く。


 『…なんか悪いね。変な奴が目の前で通行の邪魔して』


 遠真は、軽く謝罪の気持ちがこもってないような呟きを、目の前の同級生に向けて言った。

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