第一章 世界の終わり⑥

 『あれ?』


 宙にフワフワと身体が自然と浮いている感覚を覚える。何か言葉を発すると、またノイズがかかったような響きが空間でこだまする。全体的に黒い霧に覆われた空間には匂いも感触もない。

遠真は意識をはっきりさせた。


 『俺、死んだ?』


 するとさっきまで暗く包まれた空間が、急に視界前方の霧を掻き分ける。


『うっ!ってあれ?またどこかに…』


 気がつくと、遠真の前には闇に包み込まれた世界だった。空が異常な黒か紺色かはっきりしない色に染まり、辺りは荒野。色鮮やかな植物など全て枯れ果てており、ここで生きていたであろう動物の死骸が横たわっている。

 景色のせいか肌寒いその場所は、まるで絵本などに出てくる地獄の底と呼ぶのに相応しい暗闇の世界だった。


 『俺、どうなっているんだ?どこなんだここ…』


 すると、遠真の頭上から何やら奇妙な光が浮かび上がる。その姿を目に焼き付けると、それは遠真が以前見た紋章、【クロックエリア】と言うやつだった。


 『あれは。化け物が出てくるって言う!』


 するとその紋章から、一体の怪獣が姿を現す。その怪獣から巨大な翼が生えてきた。遠真がその姿をはっきりと捉えると、さっきまで街を暴れてた西洋に言い伝えられる竜の姿のクリーチャーだった。

 身体溢れ出るドロドロの液が、クリーチャーの身体中を歪な動きで覆い動く。


 『さっきの!テテ!テテェェ!』


 だが、テテの声がない。さっき一緒にいた筈なのに。一体どこに行ったんだ!

 遠真は辺りを探すがテテは見つからない。再び遠真は宙に浮かぶクリーチャーに視線をやる。


 『テテがいなければ何も出来ないじゃねぇか!テテが…』


 −−−何も出来ない…−−−


 自分の言葉に思わず絶句する。遠真は目を見開きながらその場に跪く。


『…俺…。俺…何にも出来ない奴…。この前はテテがいて、力をくれた。その力で闇雲にやってみたら、この化け物を倒す事が出来たんだ。でも、今力のない俺は…何をやってもダメな俺と…変わらない…』


 遠真は自然と涙が出て来た。ゆっくりと両頬を流れながら地面に落下していく。

 その間にクリーチャーが遠真に向かって真っ直ぐ飛び向かう。

 遠真は視線を上に向けると、襲い掛かるクリーチャーに何も出来ないまま衝突する。

 地面が巨大なクリーチャーの衝突した影響で辺りに大きな硬い地面が割れる音が鳴り響く。


 


『うっ!う、うん?』


 辺りを見回すとそこは別の世界。今度は近未来科学の発展により街中がゲーム世界のようなネットワークが発達してる世界だった。しかし、その世界も全体を見て廃れている。


 『ここは…』


 『トオマ。アタシよ』


 声のする方を振り向くと、そこには融合前の姿のテテがいた。人型で白のインナースーツを着ている。スーツには所々に電子文字で何か浮き上がっているように見える。


 『トオマ。これが本当のアタシの姿。それより、さっきの世界を見た?あの世界は元々はアタシ達が生きてた世界。そしてここはまた別の異世界。こうしてアタシ達が別世界を行き来しながら【クロックエリア】に出てくるクリーチャーと戦ってきた。かつては【デッドエレメント】を止めて見せたこともあったけど、結局また復活しては世界の終末を迎え、何度も繰り返してきたの。そしてトオマ。貴方の世界も同じようになるかもしれない』


 遠真にゆっくり近づいてくる。歩くたびに足から電子の紋章か文字かわからないものが地面に浮かび上がる。


 『貴方にもう一度立ち上がって欲しい。貴方の世界を救えるのは、トオマ!貴方だけなんだ!』


 遠真に手を差し伸べる人間姿のテテ。その手をじっと見つめる遠真。


『テテ…』


 遠真は流れていた涙を自分の腕で拭い、インナースーツに包まれた手に触れる。


 『お前の力になるって決めたもんな』


 ゆっくりと微笑む人型のテテに、遠真も頬を上げる。

 ぎゅっとお互いの手を握った後、遠真はゆっくり立ち上がる。

 二人の頭上に【クロックエリア】が出現した。


 『一発やってやるぜ!誰に認められるわけでもない。自分の存在すら消えていたとしても、世界に生きてたって意味のない奴だと思われても!』


 遠真の身体からだんだんと金色の光が湧いてきた。遠真の意識がどんどん覚めていく。


 『俺にしか出来ないことをやってやるよぉぉぉ!』


 さっきまでのは悪夢だった。その悪夢からはっきりと意識を取り戻した遠真は、今自分が倒れていることを咄嗟に把握した。


 『はっ!トオマ!』


 ゆっくりと身体を起こし、テテに視線を向ける。全体が汚れて、顔に傷ができてしまった遠真の目はしっかり見開いている。


 『テテ。融合だ!』


テテも遠真の目をはっきりと見る。そして凛々しいその眼差しに、首を縦に振る。

 テテは身体に融合時に発動するオーラを出し、遠真の身体に入り込む。

 


 意識がお互いにシンクロしあい、遠真とテテが融合した空間に繋がった。


 『トオマ。ルダイア族の戦士の一員として再び任命します。戦って!』

 

 人型の白のインナースーツ姿のテテが言った。


 『任せろ!』


 そして遠真とテテのシンクロしている空間から金色の光の粒が、遠真の身体に纏わりつく。


 『戦力増術。融合』 


 テテのその言葉が空間をこだまする。


 

 クリーチャーが、街を暴れ回っている。だが、クリーチャーの目の前で眩い視界を刺激するほどの光が広がる。思わず羽根で視界を遮ると、その先に身体からオーラが纏わりついている遠真が立っていた。

 

 羽を広げたクリーチャーに向かって、真っ直ぐ飛び突っ込んでいく遠真。しかし、羽根で盾にされ貫通しなかった。


 『硬い!』


 そしてクリーチャーの羽を広げたことによって吹き飛ばされる遠真。なんとか宙に留まりもう一度突っ込んでみる。右手に勢いを溜めて思いっきり拳をぶつける。以前倒したやり方で試みてみる。

 クリーチャーは嘴から蒼い炎の球を連射。遠真の前に火の玉が襲い掛かる。しかし遠真は、目の前の火の玉を拳でぶつけながらかき消し、直進する。


 『なめんじゃねぇぇぇぇ!』


 そして、距離を詰めた遠真は拳に力を込める。

 うぉぉぉ!と叫びながら、確実に敵の喉元を捉え、そこに向かって真っ直ぐ飛ぶ。

 遠真の拳に炎のオーラが出てくる。そのままクリーチャーの喉元向かって拳をぶつける。

 そのまま貫通し、首から上が飛んでいく。

 だが後ろから首だけが遠真に向かってくる。


 『トオマ!後ろ!』


 その声に反応した遠真は後ろに目線をやる。

 嘴を大きく開き、遠真を飲み込もうとする。

 遠真はその動きを確実に捉え、距離を詰めてきた所を身体の向きを変え、右足で回し蹴りを決めた。

 はぁっ!と台詞を吐くのと同時に蹴りが当り、右足が光の濃いオーラに包まれていた。

 クリーチャーの顔面が真っ二つに引き裂かれ上下に分かれる。

 そのままクリーチャーの顔はドロドロと液状化し地に向かって落下していく。

 一方身体の方は、ゆっくりとそのまま後方に倒れ出し、羽から胴体に向かってドロドロと液状化していった。そして肺のように消えていく。

 地に降り立った遠真は、ゆっくりと立ち上がり、融合をやめた。背後には戦った後が残っているが、数秒だったあと自然と戦う前の状態に綺麗に戻っていった。

ほわぁぁぁ…と感心している遠真。


 『すげぇ。元に戻った』


 『【クロックエリア】は橋の下から出ていたんだ』


 『へぇ。そうだったのかぁ。なるほどねぇ。神出鬼没ってわけか』


 首をを縦に数回振ったテテ。


 『でも今回はたまたま近くにいたからなんとかそこに向かうことができたけど、遠い所だったらどうすんの?』


 『そう言う時、アタシさぁ、トオマの家からテレポートしてきたんだけど、その力があるから大丈夫!』


 結局は遠くに出迎えなきゃいけないってわけか。

そう思いながら、遠真は肩の力を抜く。


 『トオマさぁ…』


 肩に乗っているテテに向かって目線をやる遠真。


 『やっぱり頼りになるね』


 そう言ってまたニッコリと微笑むテテ。それに反応して、数秒見た後に遠真も頬が少し上がった。

 遠真は雲一つない晴れた空を見上げ、街を強く照らし出す太陽に手で覆い隠しながら、テテに返事する。


 『そりゃどうも』


 


 

 

 


 

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