第一章 世界の終わり⑤
今日から高校生活の始まり。朝から始業式と呼ばれる、新しいクラスのメンバーと顔合わせをし、これからの目標を互いに発表し合う時間が始まる。だが、遠真にはこの始業式などどうでもいいイベントである。
遠真の学年は全部で2組あり、大体一つのクラスに30人程度のものだ。
遠真は、新しく発表されたクラスのみんなと集まり自己紹介を終え、新しく担当となる教師の長く鬱屈な話を、いかにもつまらないと訴える表情で聞いている。
遠真の席は教室の廊下側。出入り口に近い場所が席である。出席番号も最後の方。『堀江遠真』が本名であるため『は行』となれば最後の方が多い。
遠真は望んでいた席は一番後ろの席。黒板から離れている席だったらどこでもよかった。しかし、端の廊下側と言っても後ろの方ではない。位置するなら一番前である。
教師の話が長すぎて窓にそっと目をやる。透明なガラスから誰かがつけた指紋を、ずっと見つめながら呟く。
『つまらないんだよ…これからも…』
今までの学校での行いを振り返ると、遠真は普段は空気のような存在。いるかいないか存在すらもみんなから把握されないような人物として見られる。そのせいか、クラスでも勝手に学級委員か副委員長にされることもあった。2年そんな事が続いた。
遠真が望んでた高校生活は、クラスのみんなが楽しそうな話題についてガヤガヤしているのを自分も楽しみたくて、バカな事で笑っていられて、やりたい部活があればそこに入って体を動かし、学級委員なんていうクラスのみんなを束ね、校則にきっちり従う番犬のような堅苦しい真似などせず、とにかく今までの学校生活で楽しい思い出を作れる日々が続くようなのを望んでいた。でも結果は違う。みんなの振る舞いは、小、中、高と何も変わらなかった。
自分がおかしいのか?そんな事も考えたこともある。
遠真は先生の話が終わってみんなが帰る時間になったので自分もさっさと帰ろうと、学校指定のカバンを手に持つ。
『遠真!ちょっといいか?』
今回担任になった『塩田涼』先生と言う名前だっただろうか。が突然遠真を呼んだ。
初めての担任で年齢は30代辺りに見える。少し体が肉ついている感じで短髪のサラリーマンにでもいそうな姿。そんな先生がいきなり呼ぶとは何なのか。遠真は先生の元に向かう。
『遠真。2年間学級委員といい、副委員長と色々やってくれたね。今回もうちのクラスの担当してくれるか?』
でたよ。また望んでもない学級委員や副委員長の務め。
遠真は先生の返事に渋々『わかりました…』と答えた。
その後、遠真は真っ直ぐ帰宅することに。始まった学校生活早々に嫌な話だった。結局真面目に振る舞ってなくても、遠真は偉い子として勝手に見られてしまう。高校でも成績がいいわけでも悪いわけでもない中途半端な立ち位置にある。そんな自分が、こんな結果に結びついているのだろうか?と思ってしまっている。だからといって過去の自分も、真面目にサッカーやってもそんなに認めてもらえたことはなく、むしろ責任が重い位置にいて、何か成果を出してもクラスから、そして親からも『当たり前』のような振る舞いで、学業だって今まで得意分野などに特出した成績を出しても、担任や親からは『この教科だけではなぁ…』と言う反応がほとんど。だから何をもって頑張ったら自分は他者から理解されるのか、考えた所で結果は同じだと思ってしまう。本当は今の自分を変えられる方法があるかもしれないが、それが誰にも聞けずわからないままウロウロしていた。
『トオマ…トオマ!』
どこからか遠真を呼ぶ声が聞こえる。えっ?と反応するが、辺りは誰もいない。だが、ノイズの入った声が何度も聞こえる。
『トオマ。事件だ』
その声はテテの声だ。
『えっ!どこにいるんだよ!』
あまりにもビックリしたので声に出してしまった。周りには犬の散歩笑している人、現場仕事の途中のおっちゃん方、年老いたお婆さんが遠真の様子を見ている。
遠真は、すいませんね、へへっと軽く謝った後に気まずい状況になったので、その場を早歩きで離れていく。
『おい!どこにいるんだよ』
小声で話すと、テテが応えた。
『今、トオマの家から意識の中へと通達してるの。トオマ!事件だ。トオマのいる近くにあのクリーチャーが現れそうなの』
えっ?と反応を見せた後辺りを見回す遠真。しかし、昨日言ってた紋章など空を見ても浮かんでなく、クリーチャーなどどこにもいなかった。
遠真はテテが指示を出した方向に向かう。
『トオマ。このまま真っ直ぐ行って欲しい。そしたら長い川を越える橋がある筈』
言われた通りの方向に走る遠真。
橋?遠真が、学校へ向かう際に長い河川敷が存在する。その河川敷の川の真上に自動車が走行できる橋が存在する。そこを歩行者道路を渡って学校に行くのだが、その橋のことに違いない。
そして、思いついたその橋にたどり着くと、白黒パトカーが何台か道を塞ぐように停車していた。
『マジだ。橋が…なくなっている?渡れなくなっているのか』
完全に橋が破壊され、何も渡る事ができない状況である。
交通整備士の方たちも、通れないと書かれている看板の前で車を戻るよう誘導させている。
『トオマ!下だ!』
えっ?と反応見せた次の瞬間だった。
壊れた橋の真下から、巨大な翼の生えたあのクリーチャーが現れた。
見た目が西洋の言い伝えに出てくるような竜の姿をしている。
『あいつが…』
近くに停車していたパトカーが、竜のクリーチャーが着地した事で踏み潰される。
なんだ!と大声で叫ぶ警察の方々がその場から離れる。トランシーバーのようなものに連絡する警察が数人と、逃げる整備士の人達。
遠真はクリーチャーを見上げながらテテを呼ぶ。
『テテ!あいつどうすれば!』
『アタシもそっちに行くわ!』
テテがいきなり心臓辺りから現れる。
『アイツが今回の事件を起こしたクリーチャーね。しかもデカい』
確かに大きかった。昨日戦ったクリーチャーとは違い3、4メートルはある。怪獣映画に登場するには小さいくらいだが、それでも怪獣と呼べるほどの大きさだ。
どんどん地面にヒビが入ってくる。遠真は急いでその場を離れる。
橋に備わっていた、交通事故防止を促す電子看板もゆっくり倒れてくる。
反対方向に逃げる遠真だが、地面がクリーチャーの重みの影響で大きな揺れが響く。その揺れが遠真の走りを鈍くさせる。
近くに停車し、渋滞で並んでいた走行車から次々と人が降りてきて遠真と同じ反対方向に逃げ出す。
クリーチャーが翼を広げ空に舞う。そして大きな嘴から蒼い火の玉を吐き出す。次々と吐かれる火の玉から逃げ惑う人々に逃げ遅れた人達がその場で火の玉の餌食となる。
『はっ!マジ…かよ』
遠真の背後は燃え盛る炎が広がっている。
すると、その炎が縦列していた車に引火したのか、勢いのある爆発が起きた。その爆発は遠真の方に近づいてくる。そして遠真は突風と共に巻き込まれる。
『うあぁぁぁぁ』
『トオマぁぁぁぁ!』
突風が遠真に吹き荒れる。その勢いで後方なら飛ばされ意識を失った。
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