第一章 世界の終わり④
狭く食材の焦げ跡ごいくつか残っているキッチンで、何度も食材を炒め続け底が凸凹になっているフライパンを使い、華麗に炒め物を調理している遠真。換気扇を回すのを忘れていたので、フライパンをガスコンロの上に置いた後、すぐさま換気扇の紐を引っ張る。
大体のアパートだと今の時代はスイッチ型になっているが、この部屋は紐で引っ張って換気扇を回すタイプである。
ブブブっと換気扇が回り出した音が鳴ると、高速で一気に回転しだし、キッチンに篭っている煙を吸い込むように誘導される。
『なんだか!いい匂いが!』
遠真の左肩に乗って、料理を作っているのを高みの見物ながらじっと見ていたテテは、遠真の作るもやしたっぷりのキムチ炒めの匂いにそそられ待っていた。
『うーん。何という誘惑!こんなのアタシ達が今までいた世界にはなかった。この香りだけでもご褒美だ』
『そ、そう。もうすぐ出来上がるぞ』
ルダイア族だっけかな?この種族達にはどんな飯があったんだ?
そんなこと考えつつ、いつも遠真が使っている料理皿に盛り付ける。
『お待ちどうさん。待ってろ。お前が使えそうなスプーンが確かあった気が…』
遠真はテテが使えそうな小型スプーンを手に取った。
遠真の部屋はテーブルなんてなく、いつもは地べたにおいて、食べれるスペースを確保してそこで食事していた。今回も同じ。遠真の部屋は散らかっているから片付ければ小さいテーブルの一つくらいは配置できそうなのだが、遠真はそんな事しなかった。
普段の休みはバイト三昧でどこかに行く時間もあまりなく、そもそも住んでいる所の近くに家具屋などない。スーパーでさえ、自宅から車でも使って20分ほどかかる所にある。遠真は普段徒歩で学校に行くことがほとんどなため車や自転車などない。
『まぁ、この程度しか作れないが』
『来て早々世話になるが、いただくとしよう!』
スプーンを折角持ってきたのに、使わずにそのまま両手で飯を掴んで口に放り込むテテ。
『おぉ!トオマ!アンタなかなかやるなぁ!美味い!』
食べながら喋るテテに注意せず、ハハッと笑った遠真。
『テテの世界はどんな飯食ってたんだ?』
『アタシのいた世界?まぁ、アタシ生まれた世界はもうないんだけど…』
なんだかテテが急に暗いトーンになった。
食事を放り込みながら遠真に自分達のことを話す。
『アタシ達の元いた世界は、アタシみたいに特殊戦闘能力を持ってる者がたくさんいたんだ。【グローイングエレメント】と言ってね、アタシ達が生まれた時にその力を授けられるの。モノリスって言うのがあってそこから力を注がれる。でもそれは、いつか戦うためにね』
『戦うため?あのクリーチャーって奴らと?』
『うん。アタシ達は元々戦闘民族なんだ。長きに渡ってアタシ達の種族は【デッドエレメント】って言う現象に悩まされてて。あの黄金に輝く空に浮かぶやつ。あれは、【クロックエリア】って言うクリーチャーが作り出される紋章。あれは時間、空間など関係なく、いつどこから現れるかわかってないの。あの【クロックエリア】が発生した時、アタシ達はクリーチャーから戦いの合図がなされる。ちなみに、【クロックエリア】はクリーチャーがいる時は、必ずどこかで発生している』
『えっ?でもあの時、空には何も…』
『あれはクリーチャー召喚時に出てきて、その後は透明化するんだ。多分あの時見えなかっただろうが、夜だったから見えにくかったかもしれない。紋章は透明化してクリーチャーの活動を維持させている』
『じゃあ、その紋章ってやつ壊してしまうことできないのか?』
口にもやしたっぷりのキムチ炒めを入れながら遠真も話す。
『あれは触れることが出来ず、攻撃も通用しない。試みた者もいたが【クロックエリア】に近づこうとした時、それに反応したのか、さらにクリーチャーを生み出して数を増やしていったこともある。だからむやみに近づけないんだ』
なるほどねぇ、と返事をした遠真。
『そして、その【クロックエリア】が何度も現れて、次第には世界全てを飲み込む終末現象が起きるの。それが…』
『その、【デッドエレメント】ってやつ?』
軽く首を縦に振るテテ。
『あの現象が起きたら最期。もう世界は救えない。アタシ達はね、自分達の世界が飲み込まれて、何度も異なる世界を渡ってきたの。この世界もその一つ』
『この世界も?』
『この世界の前もかつてあらゆる生命が存在し平和だったけど、【クロックエリア】の大量発生によって【デッドエレメント】現象が起きた。その時にいたアタシ達、ルダイア族の数も少なかった。数々の戦いで、多くの命を失い。生き残ったのはそれほどいなかった。また、【デッドエレメント】の影響で異なる世界に行けず、消えてしまった仲間達もいた。戦いが起きたらアタシ達は自分の命だけじゃなく、世界をも救わなければならない』
食べ終わるのをやめたテテは、上を見上げ仲間たちの過去を思い出す。
『アタシ達は何度も諦めず戦い続けた。異なる世界で出会った大切な人達も、みな【デッドエレメント】現象のせいで死んだ。生き残ったのはまさか、アタシだけかもしれない。だから…』
テテの顔から小粒の涙が一粒ゆっくりとこぼれ落ちる。
『テテ…』
遠真が話を書き終わった後、テテの辛そうな表情に黙り込む。
テテにも残酷な過去があったのか。
遠真は箸を置いて、テテの方を見た。
『なぁ、テテ。俺に出来ることがあるとしたら、さっきの化け物と戦うことなのかもしれない。俺はお前たちに比べて、戦闘能力とか、仲間との絆とか、そう言うのは弱いかもしれない。力になれるかどうかわからないけど、俺……お前のためになら頑張ってみようかなって』
テテは、えっ?と涙を我慢していた顔が驚きの顔になった。遠真の顔をじっと見つめて涙を流すのをやめた。
『俺、さっきお前に色々話してみて、どうせ俺なんかって少しやさぐれててさ。俺が何したって意味ないって思ってたんだよ。でも、俺、久しぶりに俺の前で笑っててくれたやつを見た。それがお前なんだ。だから俺、戦えるのが俺しかいないなら、お前のために力になろうって思って』
本当は人の姿をしていた時の笑顔が見たかったなんて言わず、遠真は優しくテテの前で笑顔を見せた。
『トオマ…。トオマ』
涙を拭い去り、遠真の顔を見てまた笑顔を取り戻すテテ。
遠真は首を縦に軽く振り、テテの頭を撫でる。
『俺も嬉しいんだ。こうして、誰かのために頑張ろうと思って、そしたらしっかり振り向いてくれるやつなんて会ったことないかも』
そして遠真はテテにもう一度笑顔を見せ、テテの涙を親指で拭き取った?
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