第一章 世界の終わり②

『うっ。あれ?ここは…』


 遠真が辺りを見回すと、そこはいかにも異次元空間と呼んでもいいくらいの奇妙な場所だった。暗い闇の中から、はじけるような光の粒が流れ出し、宇宙空間のようなところに見えるそこは、声を出せば自分の耳に反響し返ってくる。

 遠真は自分が宙に浮きながら、その空間を何処かへ飛ばされている感覚を身体で感じていた。


 『俺、どうなってしまったんだ』


 ここは一体?そう感じながらただその空間に佇んでいるだけしかいられなかった。


 『トオマ。聞こえる?』


 さっきの声!でもノイズのようなものが聞こえず、はっきりと女性の声だけが響く。後ろを振り返る遠真。


 『えっ!』


 遠真が見たもの。それは、白いインナースーツのような服装に羽が生えて、茶髪のフワッとした髪を、後ろで束ねているのか風圧で後ろの髪がユラユラと靡いているのが見える。

 いかにもSFの世界観型テレビゲームに出てくるようなその女性は目を見開きながら遠真に近づく。


 『トオマ。貴方を我がルダイア族の戦士の一人として任命し、力を授けます。貴方はこれから、この世界の終末を終わらせるために戦わなければならない。その力は私達の世界においてとても重宝的なもの。貴方と融合したことで、更に能力が上がるはず。その能力を駆使して、私達の世界を滅ぼした【デッドエレメント】を止めて』


 『いきなり何を…』


また頭の中の整理がつかなくなっている遠真。

 いきなり世界終末や、戦士として戦えなど言われても何がなんだかさっぱりわからない。そして終盤に出てきた【デッドエレメント】とか言うのが何なのか。スマホで調べたら出てくるのか?

 遠真は、スマートフォンを取り出そうとした。いつもズボンの右ポケットに入れてる筈。探そうとしたその時だった。いきなり光が全体的に広がって視界を奪って行く。


 『うわっ!』


 遠真は再び両腕で視界を覆いかぶさる。


 しばらくすると、遠真は元の場所に戻っていた。だが、目の前にはあのクリーチャーとか言う怪物がいる。

 黒いドロドロとした身体から出てるその奇妙なものを地面に2滴ほど落ちるのを見て、鳥肌が立った。


 『なんなんだよ…。マジで』


 すると遠真は自分の手がやたら光っているように見えるのを捉え、両手を見た。


 『うわっ!何だこれ!えっ!えっ!』


手だけじゃなく、身体全体が金色の光に包まれていた。それだけではない。宙にも浮いている。

 まるで海外のスーパーヒーローになったような気を、遠真は身体中を確かめながら感じていた。


 『わかんねぇ。何がなんだか』


 戸惑っていると、クリーチャーが左手を伸ばして遠真の元に距離を詰めて行く。


 『うわっ!』


遠真が咄嗟に両腕で顔を覆うと、腕から西洋の盾のようなオーラが出てきた。そして、その盾を振り払うように腕を解くと、クリーチャーの手が弾かれる。


『何だよこれ!』


 驚いていると、またクリーチャーの反対の手が近づいて来た。


 『うわっ!』


 また遠真が目の前の危険を察知すると、今度は人間では到底できないであろう高さを跳ぶことが出来た。そしてクリーチャーの頭上を通り越すと、近くの破壊された電柱の破片が崩れてる所に着地した。


 『これ。現実…だよな?』


 後ろを振り返り、怪物が遠真の方に視線を変えたのを確認した。


 『どうすれば…』


 『トオマ!聞こえる?アタシなら貴方に助言ができるからしっかり聞いてて!』


 え?どこから言ってんの?

 さっきの女性らしき人物の声が聞こえる。

 胸の辺りを触ってみる遠真。しかし何もなかった。自分の胸である。


 『トオマ。貴方がアイツに一発拳を当てたら、自然とその時に強い幻影が出てくると思う。そのまま相手を攻撃し続けて!』


 話してる最中にクリーチャーが走ってくる。

 遠真は殴れる準備をするため、拳を強く握る。


 『もうわからねぇから、こうしてやらぁぁ!』


 勢いよく脚に力を溜め、前方に向かってジャンプする。

 手に謎の自分の手の倍くらいある拳型の、恐らく幻影が浮かび上がって来た。そのまま遠真が右腕を大きく振りかぶって拳を目の前のクリーチャーの顔面にぶつける。


 『うぉぉぉぉ!おりゃぁぁ!』


拳から炎のオーラが出てきた。炎がだんだんと強さを増していき、クリーチャーの皮膚が貫通して行く。

 ぐおぉぉぉぉぉぉ!と明らかに近所迷惑な雄叫びを上げた後、静かに倒れ込むクリーチャー。そしてドロドロと液状化していき、姿を消す。

 倒した敵の付近に着地した遠真。身体中の光がどんどん薄くなっていく。

 完全に光が消えた後、心臓あたりからよいしょ!と声を出しながらさっきの羽の生えた動物が出現する。


 『うわっ!ってどこから!』


 『ふぅ。なんとか倒せた。って、あぁ。なんとか大丈夫みたいだな。遠真』


 『いやいや何がだよ!つーかおたくなんなんだよ。いきなり俺の目の前に現れたと思ったら、いきなり戦闘に巻き込んどいて』


 遠真は、思いっきり右手の拳わら握りながら、その動物に怒りや不満をぶつける。


 『自己紹介が遅れた。アタシ、テテ。ルダイア族の戦闘民族の地からこの世界飛ばされて、気がついたらこんな姿に…って!えぇ!何かの姿!』


 自分の姿が動物みたいになっているのに驚いている様子を見ると、恐らく、さっき出た女性の姿が普段の姿なのかもしれない。


 『いや、驚かれても。ってか、どうすんだよこの始末』


 と遠真が後ろを振り返ると…


 『ってあれ?さっきあの得体の知れない化け物が壊した電柱…』


 そう。さっきまでの戦いの後がすっかりなくなっている。

 おかしい。さっきまであの化け物が大暴れをして、沢山のインフラ設備の物が破壊されてた筈。電柱から始まり、今自分が立ってる、アスファルトの地面。あと近所の方々もさっきの衝撃で窓越しから様子を見ていた筈。それなのに何事もなかったかのようないつもと変わらない風景になっていた。


 『多分さぁ、融合した後アンタが倒してくれたじゃん。その時、身体中オーラが発してなかった?』


 『オーラ?もしかして金色に光ってた』


 『おぉ!それそれ!それだよ。そのオーラの影響って発している時戦闘モードなんだけど、終わったらその後は何も起きてない現実世界に繋がるわけ。だから今、何も起きてないようになってんのさ』


 いきなり丁寧だった口調が少し偉そうな感じに変わってる。これもオーラのせい?かわからないが、つまり整理すると…

 あの紋章みたいなのもその影響で、出てきた時は戦闘が始まるって合図。それで消えたら元の何もない世界に戻るようになるってことか。結構、都合のいいようになっている気がする。


 『じゃあ、俺の腕が治ってるのも』


 気がついたらもう腕の怪我が治ってた。もう一度確かめるように触ってみたが、なんともなかった。でもおかしい。怪我した時はまだ融合してない筈だったのに。


 『アンタが戦闘を終えて生きてるから、戦闘前の何もなかった状況に戻ってるわけだ。そして腕は融合した時に治ったのだろう。融合すれば肉体が超回復できるようになるからねぇ。詳しく、ここで話しては寒い。ど、どこか暖かい場所ないか?』



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