第三章 救いたい人⑥

 学校近くの工場で【クロックエリア】が出現していた。そかには工場の機械を動かしている若い社員が一生懸命働いていた。

 ガンガンゴォォっと何か金属製の物がぶつかり合う音で激しく響く工場は、真上に【クロックエリア】が出現しているのに気づいていなかった。


 『トオマ!あれだ!』


既に融合が完了し、現場に駆けつけた遠真。【クロックエリア】を発見すると、クリーチャーが出現するのを待ち構える。


 『来た!』


テテが話しかけると、遠真も戦闘準備の姿勢になる。

 クリーチャーが出現した。大きな翼を兼ね備え、鋭い嘴の鳥の姿をしたクリーチャーだった。


 『よし!行くぞ』


遠真が、クリーチャーの元へ飛んで向かう。

 さっさと仕留めようと、拳に力を込める。すると、クリーチャーが目にも止まらないスピードで消え去った。


 『え?』


『トオマ!後ろだ!』


遠真が背後を振り返ると、クリーチャーが高速でこっちに向かって来たのを捉える。そして遠真の身体に衝突する。


 『うわっ!』


 それだけではない。背後から、斜め頭上から、下から上からと高速で何度もぶつかって来る。

 早すぎる。遠真にはついて来れない。


 『コイツ!早い!』


そして、何度か衝突した後、嘴で遠真の身体を挟む。


 『クソッ!ヤバい!』


『トオマ!テレポートだ!』


『あぁ、そうだな。テレ、』


ポートと言おうとした瞬間。遠真の身体は遥かに高速なスピードでどこかへ持っていかれる。早すぎて遠真の身体が風圧で潰れてしまいそうだ。


 『トオマ!早く!』


『テェレポォォトォッ!』


なんとか遠真はその場から脱出した。

 クリーチャーが嘴に何もない感触を残した後、遠真を探した。

 遠真は真上にいた。


 『オラァァァ!』


強烈なキックを浴びせようと真上からクリーチャーの頭上目掛けて急降下して行く。

 ギリギリクリーチャーに触れる所で、また高速で逃げられた。


 『クソッ!またか!』


背後からまたクリーチャーに衝突される。

 気を抜いていた遠真は宙を浮いたまま、取り残された。 

 丁度遠真の頭が地面の方に向いた時、前方からクリーチャーが向かって来る。


 『テレッ!』


 ポートとまた叫ぼうとしたのだが、相手のスピードの方が早すぎた。今度は鳥の鋭い爪が付いた足で遠真を掴み取る。そしてどこかへ連れて行こうとする。


 『もうここで始末する!テレポートは辞めた!ウォォォォォ!』


拳に力を込めて、炎のオーラを出す。そして勢いよく遠真の身体を掴んだ足に向かって拳を振るう。

 

 『トオマ!後ろ!』


テテの声に反応し、拳をぶつける直前だった時、背後を確認する。段々と自分の通っている高校に近づいてきている。


 『マジか!』


屋上に誰かがいた。それを確認する。そこには、さっきまで遠真と一緒にいた彩花だった。


 『彩花ちゃん!』


 遠真は屋上のだだっ広い地に急降下する。足を掴まれ、体重をかけられ、クリーチャーの下敷きにされる。


 『な、何あれ!?』


彩花が目の前のおぞましい姿の怪物に怯える。その場から離れようと、出入り口のドアまで走り去った。すると、いきなり彩花の背後から何かが急足にドアに向かって来た。そして勢いよく衝突する。


 『きゃあぁぁ!』


ぶつかった何かを確認すると、金のオーラに光った何かだった。人の姿をしている。

 よく見てみると、それは遠真の姿だった。


 『遠真君!』


『彩花ちゃん…危険だ!』


遠真は体力的にボロボロになりながらもなんとか立ち上がる。そして、彩花の背後に立っているクリーチャーに視線を向ける。


 『逃げろ!』


そう言いながら遠真は、彩花に向かって走り出す。足を痛めているのを我慢して、必死に彩花の元へ向かう。


 『遠真君!?どうしたの?その光』


彩花の元に辿り着き手を引くと、後ろから嘴で彩花を咥えようとするクリーチャーに盾のオーラを放つ。そのままじっと耐える。しかし、遠真も体力に限界がきている。その為オーラも段々弱くなっていた。


 『彩花ちゃん…今のうちに下がって』


彩花に指示すると、本人はゆっくりと数歩下がる。

 そして盾のオーラが破られる。パリンッとガラスが割れたように砕け、風圧でその場から弾かれる。


 『うわっ!』


後方に倒れる遠真に彩花は駆けつけた。

 

 『遠真君!大丈夫!?』


『トオマ!しっかり!』


遠真がなんとか立ち上がろうとするが、目の前に鳥のクリーチャーが上から眺めるように迫って来た。


 『逃げて、早く』


力尽きそうな遠真を彩花は離れようとしなかった。


 『遠真君!』


クリーチャーに目線をやる彩花。そして彩花に向かって嘴を開ける。


 『早く!』


『だめだ!トオマ悪い。この子とチェンジするよ!』


 そして彩花に向かって嘴が迫って来た。遠真が腕で顔を隠すようにすると、一瞬、眩い光が遠真の視界なら現れるのを捉える。

しばらくして、遠真は腕を解く。


『え?何!?』


彩花の声だ。なんと彩花が金色のオーラを見に纏い、自然と盾のオーラが現れていた。


 『どうなってるの?』


『ごめん。勝手に身体に融合した。今から貴方がこの【クリーチャー】と戦って』


そして、鳥のクリーチャーが盾のオーラの波動で後方へ下がる。


 『身体に力を込めて。力が湧いて来るのを感じて』


『な、何?』


『お願い!早く!』


遠真は後ろに2歩程下がった。今は遠真にテテの声は届かず何も聞こえないのだが、目の前で彩花がテテと融合している状況なのは理解できた。


 『え?力が湧いて来る?どういう』


『彩花ちゃん!拳!手に力を入れて!相手に向かって殴り掛かるように!』


『え?相手に?殴る?』


彩花の背後にいるクリーチャーが翼を広げて威嚇をして来た。そして大きく羽をばたつかせ、宙に浮いた。


 『テテ!後の指示は宜しく!』


そしてクリーチャーの方に目線を向けた彩花は言われた事を脳内でシュミレーションさせる。


 −−−相手に向かって殴る…相手に向かって殴る。相手に向かって、殴る!−−−


 そして脳内に思い出したのは、あのイジメを繰り返した女グループ。それを思い出す。

 彩花の肉体が段々と光を増していき、パワーが薄々と漲って来た。


 『私はずっと我慢して来た。この高校生活ずっと。でも、もうそんな事しなくていいんだ。私は全て、今までの気持ちをぶつける!』


両拳に光が集まってくる。そして、炎がボォッと燃えるオーラが現れた。


 『私を助けてくれた遠真君を、今度は私が守る!』


 そしてクリーチャーが足で彩花に掴み掛かろうと落下して来る。だが、彩花は睨みをきらし、足に力を込める。そして勢いよく高く宙を浮いた。


 『ハァァァァ!』


彩花のアッパーカットがクリーチャーの両足の間の腹部に直に衝突した。

 クリーチャーの腹部から、段々と巨大な風穴が開けられ、広がっていく。

 クリーチャーは学校中に響き渡る悲鳴に近い鳴き声を上げ、消滅していった。


 

 遠真が上を見上げると、さっきまでの明るい空になったような気がしていた。クリーチャーを倒したのだ。自分ではないが。

 遠真は全身を見ると、さっきまでの戦いでボロボロだった制服は元に戻っていた。


 『トオマ!やったよ!』


目の前にテテが話しかけて来た。


 『あぁ。今回は俺の出番じゃなかったけどな』


目の前にいた、彩花に目線を向けた。


 『遠真君!大丈夫?』


『うん』


 返事を返し、遠真はテテが身体の中に入っていくの確認する。


 『遠真君、あんなのにいつも戦ってたんだね』


 ニッコリと笑みを浮かべた彩花。


 『あぁ…って!待って!記憶があるのか!』


『何が?』


『そりゃそうでしょ。トオマだってこの子に私が移動した時、記憶があったでしょ?一度融合した者は記憶されるんだよ』


『そういう事なのか。そ、そうだよなぁ。って事は、もう彩花ちゃんも気づいちゃったって事?』


『あぁ、そういう事。そのアヤカって子も戦力増術したから、もうコネクティングされた』


『ねぇ?さっきから何一人で言ってるの?』


そうか、彩花ちゃん今はテテが身体の中にいないから聞こえないのか。俺の時もそうだった。融合が変わってからテテとの交信が出来なかったなぁ。

 そう思いながら遠真は、なんでもないと返す。


−−−キーンコーンカーンコーン−−−


 『あぁ!やべっ!昼休み終わってた。遅刻じゃん!』


『あっ!本当だ。急ご!遠真君』


そして二人は屋上から急いで教室へ向かった。






 

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みんなの世界を救えるのなら【途中ではありますが】 森ノ内 原 (前:言羽 ゲン @maeshin

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