5000字程度の短編なのに引き込まれる人間関係が描かれている、希有な短編だと思います。
料理に関しては、仔グリフォンの肉といわれても想像もつかない私なので、こういった架空の料理がメインであったなら、そこまでの印象は残らなかったでしょう。
しかしメインは料理人と、王の毒味役の関わり方にあると思っています。立場も考え方も違う二人の出会い方は、私が抱いた感想では最悪よりちょっとマシくらいなものでした。縄に填めるに等しいやり方で、主人公を宮廷料理人にする訳ですから。
しかし3話目で再会する二人の、それ程、長いともいえない会話の中には、確かに友情を感じたのです。男同士は簡単に友達にはなれないし、一目惚れなど存在しないと思っている私だから思っただけかも知れませんが、この物語に書かれていない部分で、二人が過ごしたであろう時間を想像できる遣り取りが、3話に書かれていました。
そしてクライマックスの4話。
果たして彼らは笑顔になれたのか? 物語が終わり、書かれていない最後の瞬間にあった表情は何なのか? それを考えずにはいられません。
それだけ書かれていない部分を想像してしまう、10万字でも少ないかも知れない、書かれなかった物語の事を考えてしまう程、この短編の完成度は高いです。
ただただ痛快です!