最後の晩餐には何を食べたい?
- ★★★ Excellent!!!
タイトルから、料理をめぐるハートウォーミングなお話を予想していた。
実際読んでみると、プロとして自分の仕事に誇りを持ち、命をかけた男たちの物語だった。
どんな些細な料理の欠点も見逃さない毒見係レナート。
彼のこだわりは、「王は宝石の鑑別師ではない。だが王冠の宝玉は完璧でなければならない。料理も同じです」という言葉に集約される。
そんな彼に完璧な料理を味わせようと奮起する天才料理人ラウル。
作中で彼が言っているように、料理というのはしかるべき材料を適切な手順で調理すれば、普通の人を満足させるのには十分に美味しくなるものだ。
だが、神の舌を持つレナートはそれでは決して満足しない。
それ故にラウルは技量の限りを尽くし、より美味しい料理を作ろうと奮闘していく。
自分の限界に挑戦するその道のりは、苦しくも楽しいものであったことが、描写は少なくとも十分に想像できる。
そして、二人が生涯最後に食卓を囲む時、彼らの望みは叶えられる。
誰に不幸だと言えるだろう。
ずっと待ち望んでいた一皿を最後の晩餐として生涯を閉じることが。
料理人としての生涯をかけた努力が実を結び、相手に認められた満足のうちに死を迎えることが。
客観的に見ると相当悲惨なんだけど、不思議と爽やかな後味を残す一品。
ごちそうさまでした。