理想と現実との狭間で迷う新人のお話

  • ★★★ Excellent!!!

魔法が実在し、研究の対象になっている現代日本が舞台。
魔導師養成学校を優秀な成績で卒業した伊藤天音は、国立第5魔導研究所に配属される。
だが、その実態は彼女の思っていたのとは違っていた。
第五は研究員が変人揃いの上規模も10人程度と、あまりにも弱小でキャリア形成にもつながらず、出世を望む天音にとって全くメリットのない勤め先で、彼女は転属を望むようになる。


夢と現実のギャップというのがこの物語の大きなテーマだ。
主人公の天音のモットーは、『憧れは、憧れのままにすべき』であり、夢を追うことで傷付いたり幻滅することを過剰なまでに恐れている。

そのギャップというのはおとぎ話のような「魔法」と、実在して国の管理によって管理される「魔導」という技術の間にも存在する。お役所仕事の規制でがんじがらめの魔導は、かつて魔法使いにあこがれた天音にとって、本音では受け入れがたいものなのだ。

頭のいい彼女は、その不満を心の隅に押し込め、魔導は自分の出世の道具として利用できるものと割り切ったつもりでいるが、先輩たちからその内面は見透かされている。


現実は望むようにならないし、夢を追うことで傷付くこともある。だが、だからといって最初から夢を諦め、醒めたふりして生きて本当に満足なのか、とこの物語は問いかけてくる。
主人公の心の変化を通じて、理想を持ち続けること、現実に抗うことの大切さを描いた一作だ。