2 Bパート




 【喪霜もしもモール1F/アキス】



「この――!」


 怒りのままにドクタークライシスが拳銃を春原はるはらに向けた。


 その手が――総条そうじょうの放った弾丸によって血潮を噴く。


 そして、頭上から――アキスを狙っていたポーンデッド・ナイトの頭部に銃弾が突き刺さる。モール四階、爆発を受けて傷だらけになった刑事がライフルを構えていた。


 ――何がなんだか、分からなかった。すべてが一瞬だった。


 しかし、一つだけ――今この場で、戦える力を持つものたちが、その力を、その意志を振り絞ってい、懸命に生にしがみつこうとしている――



「そんなに見てぇなら、見せてやる――」



 ポーンデッド・ナイトが槍を振るう。まだ脳部の機能停止には至っていない。



「見てろよ、俺の――変身!」



 首のチョーカーに触れる。電気刺激がその全身の細胞を励起される――心拍急上昇、破裂しそうな勢いで血流を加速させる――


 蒸気が噴き出した。



 白煙の中、一体の黒い人型シルエットがその場に現出する――



 振り抜かれた槍を、その手で掴む。

 たったそれだけ――槍が熱を帯び発火し、爆裂する。その刹那、怪人はポーンデッド・ナイトを引き寄せ、左腕でその胸を抉った。


 爆発が起き、蒸気が晴れる――そこにいたのは、黒い魔人。

 赤い目を輝かせ、強烈に鋭利な五指を握りこむ。


「く――ポーンデッド!」


 大量のポーンデッドが全方位から押し寄せる。


 その中で、一匹の怪人が着実に己の肉体を再構成させていた。


 怪人たちに紛れ、ドクタークライシスは逃亡を図る。


「にが、すか――」


 それに気づいた総条が追いかけようとするが、この場にはまだ民間人が――彼は一瞬だけ、迷った。そして叫んだ。


「任せていいか!?」


 それは、黒い魔人に放った言葉だった。


「――――」


 魔人は、微かに頷いた。




 【同1F/ハンドレッド】



 ――逃がすか、あの眼鏡――必ず殺してやる――


 黒い魔人がポーンデッドを引き裂く。飛び散ったその断片を手首が集め、己の腕とし――『ハンドレッド』を再構成する。


(実験体だかなんだか知らねぇがよぉ――イキってられるのも、これまでだぁ!)


 断片を寄せ集め組み合わせ、巨大な両腕を得た一体の怪人が現出する。


「オレは、何度でも――再生するぅっ!」


 どんな怪人といえど――これだけのポーンデッドを相手にしていれば、いずれ疲弊するだろう。


(この黒いヤツ――何を燃焼している? この蒸気はなんだ? ――なんでもいい、物量ちからこそ全て! 捻り潰す!)


 何かを消費している限り、いずれ限度が来る。それがネオベータリアン――紛いものの宿命だ――


「があぁあああああ!」


 振り回した巨腕を焼痛が襲う。拳が焼け爛れる。


(あんな細腕で、俺の――巨腕態ストロングフォルムになった俺の一撃を受け止める、だと!? こいつ、いったいどうなって――)


 腕が、解ける。


(あぁああああ! なんだ!? 力が抜ける、奪われる! 指先からばらばらに――)


 頭に靄がかかったようだった。思考がまとまらない――それもそのはず、無数の他個体の部品をかき集めたことでなんとか脳部の損傷を補い思考活動を回復させたのだ。それも、いわば気合で継ぎ接ぎの身体を維持しているようなもの。痛みが、熱が、容赦なくその思考を焼き尽くす――意識が失せれば、肉体もままならない。


(それだけじゃない、これは――ベータリアン感応波か!? このクソチビが――俺のパーツに命令しているのか……!?)



 ――自壊せよ、というように。



 その魔人に際限はない。心臓が、その心核が鼓動し続ける限り、脈動を止めない限り、永遠のエネルギーを生成し続ける――永久機関。

 それこそまさに、真ベータリアンの――



『三分じゃ。それ以上活動を続けると、人間態に戻れなくなる――』



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る