3 Cパート




 【喪霜もしも大学、構内】



「――いや、ないわー」


 安全な構内から警察と怪人の戦いの一部始終を見守っていたアキスは、思わず胸を押さえて呻いていた。さながら金的を受けた男性を目撃してしまった気分。


(地方都市の一警察であの戦闘力……現代の治安組織に楯突こうとか、正気じゃねえ)


 ――もしも、彼らに〝敵視〟されてしまったら――




 【夜:あるレストラン】



 ――助けてもらったお礼に、一緒に食事でも――


 同じゼミの女性に誘われ、その夜、前野まえの正嗣まさつぐはあるレストランを訪れていた。


 照明を落としていて薄暗いが、地上四階にあるため窓から入る街明かりによって足元には困らない。窓際の席に恰幅の良い男性が一人いるくらいで他に客の姿はないが、人気がないというよりは雰囲気があると捉えるべきだろう。ほとんど貸切状態ともいえる。女性は前野が選んだその店をいたく気に入ったようだった。


「それにしても、お店の人も見当たらないけど――」


 不意に。


 ごぼっ――と、何かの溢れるような音がした。


 窓際に座っている男性の豊満な腹が、さながら空気の抜けた風船のようにしぼんだことに女性は気付かなかった。


 彼女が反応を示したのは、足元。自身の足首に何かが触れるのを感じたのだ。


 手、だった。


「きゃっ!?」


 成人男性の手が足首に触れていた。

 暗がりに誰か、い――やぁああああ!


 肩から指先までの腕が――触れて触れて増えて触れ手触れる増える増える埋める増える震えるるるるるるる!


「――――」


 無数の腕に呑まれていく――その光景を、前野は静かに見つめていた。



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