3 Cパート
【遊園地、外】
複数の通報を受け、数台のパトカーが周囲を囲んでいた。
爆発があったのか、遊園地内で煙が立ち込めている。
様子を見に行った警官が戻ってこない。代わりに現れたのは、白貌の怪人――先日の大学襲撃事件に確認されたそれの一体。
警官の一人が勧告なく発砲したが、それの表面に傷一つ負わせることが出来なかった。周囲を取り囲むが、微動だにしない。まったく動じた様子を見せない。そこは膠着していた。一体の物言わぬ怪人を前に、拳銃で武装した警官たちは口々に何かまくしたてるばかりで園内への突入もままならない――
そこに、一台の特殊車両が到着する。けたたましいブレーキ音を立て、遊園地のフェンスに衝突する間際に停止した。
一人の男が飛び降りる。眼鏡をかけた、精悍な相貌をした大男。細く、長身、しかし彼を前にすると、まるで巨人にでも相対したかのような威圧感を持つ――
「警備部特殊事案対策、強襲一課――
――通称〝武装警察〟――公安内においても特殊な事案を取り扱う、犯人を制圧するためだけの特殊武装を許された精鋭たち。
その一番槍、総条大悟は手ぶらだった。
拳銃こそ携帯しているが、彼は素手のまま警官たちの包囲へと突っ込んでいく。慌てて道を開ける先行到着した機動捜査隊。目の前に現れた白貌の怪人を前に、しかし総条大悟警部は止まらない――
「邪魔だ」
殴り飛ばした。黒い手袋に覆われた右腕の一振り。それが怪人の頭部を粉砕する。
「
後続する強襲一課の面々に声をかけ、不自然な沈黙と不似合いなBGMの中、己の嗅覚を頼りに進む。総条は知っているようだった、この先に何かがある、と――単に、真っ直ぐ走っているだけかもしれないが。
彼の足を止めたのは、地面に転がる異形の腕のせいではない。視界の端に散らばる白濁した肢体――
総条はここで初めて、腰の拳銃に触れた。セミオートのブレイバー2020――特殊弾を装填した、武装警察の特注品。
「何者だ……!」
誰何の対象は、白煙立ち込める広場にあった。
陽炎のように佇む――
「クソっ、メガネが曇って……!?」
白煙が薄らいでいく――視界が晴れる頃にはもう、そこに立っていた何者かの姿は消えていた。
【遊園地】
縦回転する運命の輪から、その男は横回転に自走する馬車の中に移動していた。
無事だった人々が、遠巻きに事件の現場を眺めている。
男はその光景をまるで映画でも見るように、出来立てのポップコーンを片手に鑑賞していた。
その男は、先日の大学襲撃事件の主犯格と思しき人物と特徴が合致していた。
「あれだけの数のポーンデッドを、ものの数分で……。いやはや、たかがプロトタイプとはいえ、まさか……。私も少々しょんぼりするというものだ」
「…………」
白い男の前に、白馬に乗った青年の姿がある。
「PDX01」
「は――」
男の呼びかけに、青年が応えた。
「君には、彼の調査をお願いしましょう」
【遊園地、お化け屋敷】
青年は、全裸だった。
膝を抱え、人目につかないようにと体を丸くして小さくなっている。
「……アキス?」
近づいてきた気配、その呼びかけに、青年は顔を上げた。
「……なんで、裸?」
「……怪人に、服を持ってかれた……」
「そ、そう……。大変だった……ね?」
「…………」
青年――アキスはのっそりと立ち上がった。
「ちょぉ……!? せめて前を隠して……! 変質者ー! 助けてポリスメーン!」
「その方がより変質者じみてるだろ。俺に後ろめたいものはない」
今の彼には、隠すものなど何もなかった。隠す必要のある相手でもない。
なぜなら――青年の股間には、何も無いのだから。
そして、目の前の相手もそれを知っているのだ。
今更、何を隠す必要があるというのだろう――
「気持ちの問題ですー!」
リュックの中にはジャージが入っていた。
青年は服を着た。
遠くで、サイレンの音が響いていた。
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