隣国の人質ですが溺愛され、更に私への母国の扱いに激怒した公爵殿下が罰を下すと言ってます。私は気にしていないので、母国の重鎮は早く謝りに来てください。許す準備は出来てますから、はぁ
第15話 死神執事に手の甲にキスされ忠誠を誓われ、お姫様抱っこでベッドまで運ばれる
第15話 死神執事に手の甲にキスされ忠誠を誓われ、お姫様抱っこでベッドまで運ばれる
さて、食事も終わったところで、やっと落ち着いた話が出来るようになりました。
彼らの方から、わたくしに、
「ところで、実際に所どういった理由でカナデお嬢様はこのような場所にお越しになられたのですか?」
と質問を頂きます。
私はかくかくしかじかと理由を伝えます。すると、セルバトスさんは、いつも冷徹そうな表情ではあるのですが、実はあれはまだマシな方で、本当に冷徹になった時は、周囲の温度がスーっと低くなることが分かったのでした。
それくらい、冷徹な表情をされて、
「そのペルニシカ皇子という輩。許せませんね。ヨルダお嬢様のお屋敷を利用したこともさることながら、あなたのような可憐な令嬢にそんな仕打ちをするとは」
「いえいえ、そんなに怒って頂く事では。って、可憐な令嬢って誰のことでしょうか……?」
わたくしが混乱していると、
「やれやれ。そういうとぼけたところ、最初に見た時から少し似ていると思っていたんですよね」
彼はなぜか嘆息しながら言います。そして、話題を変えるように、
「もちろん、今日は泊まって行ってください。それにあなたのおかげで踏ん切りがつきました」
「え?」
彼は一瞬、逡巡するように目を閉じてから、覚悟を決めるかのように言いました。
「先ほど何となく分かりました。ヨルダお嬢様はもうこの世にはいらっしゃらない。約束が果たされることはもうないのだと……」
彼は寂しそうに言います。
その表情に私もつらい気持ちになります。ですが彼はその後すぐに微笑まれて、
「ですが、あなたのおかげで夢をかなえることが出来た。あなたからは確実にヨルダ様の気配を感じるのです。これは錯覚ではないでしょう。ありがとう」
彼はそう言って私に感謝の言葉を述べます。
であるならば、わたくしも知っていることをお伝えすべきですわね。
「あなたはこのあたりが国境近くだとおっしゃいました。ですが、それはもう300年も前の話なんです」
「……やはり」
冷静に受け止めて頂けそうですわね。
「この帝国へ参る前に、歴史を一通り勉強して参りました。300年ほど前、この辺りは中立地帯で、銅の採掘権を巡って小国同士の小競り合いが頻発しておりました。。そして、最終的にロズイル公爵領がこの辺りを手中に収めたと聞きます。この家がロズイル領の人質であるわたくしの借家となったのも、そういった経緯からですね」
「なるほど。だが、今はブリュンヒルト大公国領と思いますが」
「それは50年ほど前に領土の割譲が行われたからですわ」
「なら、もしかするとロズイル領のことを調べれば、ヨルダお嬢様のことも分かるかもしれない?」
「そういうことになります」
彼の目にある種の熱意がともったのが分かりました。
「あなたのおかげで新しい目標が出来ました。これもまたあなたとのめぐりあわせのおかげ。『運命』と言っても差し支えないでしょう」
「お、大げさでは?」
「いいえ。このセルバトス。いえ」
彼は首を横に振り、
「本来の名、『セラフ・バルバトス』。あなたを第2の主君として守りましょう。この身の朽ちるまで」
そう言って、さらりと私の手の甲に口づけをするのでした。
それはまるで騎士が剣を捧げる儀式。
しかも、こんな美男子に手の甲に手にキスをさらりとされてしまったので、体温が急上昇してしまいます!
ま、まぁ。
そこれは悪役令嬢に見える。酷薄女と呼ばれたわたくしですので、表情には出ていないと信じますが。
「あの、ですがわたくしは主人でもなんでもなく、今夜限りで出ていくつもりの追放人質女ですが……」
「いえいえ。
「えっと、マイマスターって……」
「無論。かけがえのない、唯一にして私の宝物、という意味です。我が主。もう二度と、
「ちょっ!? えっ!? はえ?」
いつの間にか『
一体、これは、なにごとでしょうか!?
しかし、彼は紳士らしく、ゆっくりとわたくしをベッドへと運ぶと、宝物を置くようにそっとベッドへ横たえてくれます。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。ああ、そう言えば、この部屋も、屋敷も、
「えーっと、我慢? 無防備?」
何のことを言っているのでしょうか?
私は混乱します。
一方の彼はやれやれ、と首を振るばかりです。まるで私だけが分かっていないよう。
あ、それにしても、
「幽霊なのに普通に触ったりもできるのですね」
「数百年も幽霊をやっていますので、守護霊に進化していたようですね。
「へっ!? 守護霊!? それって」
いやいや!
待ってください。
守護霊って確か、古代図書に、とんでもなく希少な、精霊か神様に近い存在って記述があったような気がするのですが!
それを主をお姫様抱っこできるから便利って……。
あと、ちょっと気になっているのですが、
(セラフ・バルバトス……。うーん、どこかで聞いたことがあるような気がするのですわよね~)
ですが、そんなことを考えている暇もなく、わたくしはセルバトスに寝巻を用意され、ベッドメイクを済まされて、あっさりと就寝させられてしまうことになったのでした。
(まっ、まぁ、でも。セルバトスが元気になったのでしたら結果オーライですわよね! うんうん。ふ~、それにしても、今日は色々ありましたわね~)
わたくしは本日の振り返りをします。
気持ちよすぎる城のベッドから、頑張って脱出したり。
こっそり城から出たり。
馬車をゲットしようとしたのですが、お金がなくて徒歩で一日かけて歩いたり。
屋敷のお風呂がぬるかったり。
守護霊のセルバトスと夕食をともにしたり(もちろん、セルバトスは食べたりは出来ないのですけど)。
そしてこれから彼の冒険譚を聞きながら、眠りにつく、と。
……ん?
んん~????
でも何か忘れてるような~。
そんなことを思いながら、彼の寝物語にうとうととしはじめた、その時でした。
「ここか! カナデ・ハイネンエルフ侯爵令嬢!!!」
「助けに来ましたよ! カナデ様!!!!」
二人の男性が突如部屋に飛び込んできたのでした。
どうやら、まだまだ夜は続くようです。
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