第6話 兵士二人の正体を知る

「わたくしの友達になっていただけませんか!」


私は思い切ってお願いしてみました。


何せ今まで籠の中の鳥状態でしたし、元婚約者のペルニシカ殿下の態度も非常に冷たいものでした。


もちろん、そこは家同志が決めたこと。


国のためと思えばと、貴族の矜持にかけて、不満に思ったことはありません。


ただ、一つ残念でしたのが、


「友達ですか?」


レン様が非常に不思議そうなお顔をされ、またブリューナク様は余りに意外なことを言われたとばかりに目を丸くされています。


「はい。と言いますのが、恥ずかしながら、母国では余り私の立場を良いように思われておりませんでした。将来の妃ということで、行動は制約されていましたし、自由などなかったのです。学院でも残念ながら、誰が吹聴したのか、私がイジメをしたりする、いわゆる悪役令嬢だというように言いふらされてしまいまして……」


私はちょっと深呼吸してから、正直に告白するように、


「ぶっちゃけボッチだったのです!」


ああ、言った! 言ってしまった! こうなれば止まりません!


「ですので、ぜひぜひ友達になっていただきたいのですわ! あの、こんな人質女の友達は嫌かと思いますが、これほど自由に語らいをさせていただいた方は初めてなのです。なので、もし……その……ご迷惑でなければ……」


そこまで言いかけて、私は凄く変なことを言っているのではないかと不安になり始めました。


とても最後まで言い切ることができませんでした。


きっと変な女と思われていることでしょう。


しかし、


「く、くくく」


「ふ、ふふふ」


へ?


私の不安とは裏腹に、なぜか目の前のお二方は、口元をおさえて笑いをかみ殺そうとされているようです。


ですが、


「わーっはっはっはっは! なんという面白い女だ! うむ! よし気に入ったぞ、カナデ・ハイネンエルフ嬢! いや、我らは『友達』であったな! であれば、カナデ! そう呼び捨てにするとしよう!」


「ふふふ、そうですよ、ブリューナク様。ええ、カナデさん。ぜひ友達になりましょう。なんとも偶然ながら、僕たちもそれほど多く友達がいないんです」


「その通り! 貴重な友達という奴だ! であるからして、お前も俺のことはブリューナクと遠慮なく呼ぶが良い!」


「僕のこともレンで結構ですよ」


二人ともなぜかこの上ない上機嫌! といった様子で言って下さるのでした。


「本当ですか⁉ やりました!! 初友達ができましたわ!!」


私はとても嬉しくなります。とはいえ、


「ただ、さすがに呼び捨てにするのはさすがに外聞が宜しくありませんので、ブリューナク様、レン様とお呼びさせていただきますね」


「友だというのに、なんと他人行儀な!」


「いえ、陛下、カナデさんらしい、まことに深謀遠慮だと拝察いたしますよ」


「……むう、まったくわずらわしいことだ!」


ふん、とブリューナク様は鼻を鳴らすのでした。


殿下?


うーん、聞き間違いでしょうか?


まぁ、何はともあれ、殿方が私のような人質女に呼び捨てにされるのはどうかと思いますからねえ。







……さてさて。


そうこうしているうちに、馬車は国境を超え、徐々に農地から市街地らしき場所、城下町を抜け、大きな家並みが立ち並ぶエリアへと入ってゆきます。


そう、ブリューナク大公国の首都『リィン』に到着したのです。


(ああ、とうとう、ここでわたしの恐ろしい監禁生活が始まるのですね!)


私もさすがに顔を青ざめさせざるを得ません。


母国の者たちから出立する日まで、ここでの人質生活は絶筆に尽くしがたいものになると散々聞かされているからです。


(一体どんなひどい目にあわされるのでしょうか⁉ しょ、食事は一日一度くらいは提供されるのでしょうかっ……! お風呂にも入らせてもらえないとかっ……! もしくは二度とお天道様の下を歩けないとかっ! あるいは毎日ムチをうたれながらよく分からない回転する棒みたいなものを押す仕事をっ……!!!!)


と、そんな風に私がこれから一生続くであろう仕打ちに打ち震えている間に、馬車はどんどんどんどん進んでいきます。


ですが、私は途中で違和感に気づきます。


(あれ?)


おかしいです。


いつの間にか馬車は大きな門をくぐり、貴族たちばかりが住むエリアに入っていました。それだけならまだしも、


「開門せよ」


「はっ!!」


ガラガラガラガラガラ!


と、なぜか馬車は首都リィンが見えてきた時から、視界に入っていた、考えられないほど立派な白亜の城へと入ってゆくのです。


「へ?」


私が状況を理解できずに、小首を傾げたり周囲をきょろきょろするばかりです。


おかしいです。私が連れていかれるのは、今にも崩れ落ちそうな廃墟同然の場所のはず……。


ですが、そんな風にアタフタしている間にも、馬車は城の中央の道を進み、やっと、とても立派なつなにて停止したのでした。


で、ですが!


「こ、こんなところに馬車を止めたら怒られるのでは⁉」


「なぜだ?」


「な、なぜって。だって、ここは城の持ち主が馬車を止められる場所なのでは? どう見ても兵士さんたちが馬を止める厩舎ではありませんし……?」


「ふむ、ならば問題あるまい」


「ええええ⁉ ちょ、ちょっとレン様⁉ ブリューナク様をおとめしないと!!」


私みたいな人質を連れてきたせいで処罰を受けてしまいます!!!


ですが、


「ええ、ブリューナク様のおっしゃる通り、問題ありません」


そう言って、彼もさっさと馬車を下りてしまいます。


「あっ、ちょ、ちょっと! 待ってくださいってば!」


勇猛果敢な恐れを知らないのは優れた兵士さんの資質かもしれませんが、この場合は余りに無謀ですわ!


それに、お願いですから、一人にしないでくださいませ!


こんな立派な繋ぎ場に一人取り残されるなんてごめんこうむります!


そう思って、急いで幌馬車の屋形やかたから飛び出たのでした。


しかし!


「おかえりなさいませ! ブリューナク大公殿下!」


「レン侯爵様もおかえりなさいませ!! 家臣一同、お帰りをお待ちしておりました!」


そこにズラリと文官や武官といった人たちが集まり、馬車より下りた兵士お二人に、最敬礼のお辞儀をしていたのでした。


「へ?」


えーっと。


つまり。


「へ??」


どゆこと?


私はやっぱり理解が追いつかず、終始混乱するばかりだったのでした。


ちなみに、そんな私を見て、少し前をゆくお二人は、何だかおかしそうに、微笑ましそうに私を眺めていたのですが、その時の私にはそんなことを察する余裕など微塵みじんもないのでした。

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