第18話 社交界でデビューし注目を浴びる
「はぁ、社交界ですか……?」
明日大きなパーティーがあるそうです。主催はなんとブリューナク殿下ご本人!
わたくしはいつの間にか奇麗になった、元マチル男爵家の持ち家であり、今は人質としてのわくたしの
「ですが、ずいぶん唐突では?」
そんな疑問に、ブリューナク殿下は淡々と答えます。
なに、必要とあらば家臣を招くのは、王として当然のことゆえな。
「なるほど」
なるほど、と言いつつも、どこか腑に落ちません。
何か大きなパーティーを開く必要が最近あったでしょうか?
とはいえ、私は新参者。
わたくしには関係のないところに、きっと必然性、理由があるのでしょう!
「まぁ、そうだな。しいて言えば、大公国の重鎮らにはカナデ嬢のことは紹介した。しかし、あれはこの国の貴族どもの一部に過ぎぬ」
「それで充分のような気もしますが?」
わたしは首を傾げますが、同席されているレン殿下はどこか意味深な様子で笑います。
「いきなりの特権待遇ということですので、顔を広く見せておく、ということは何かと必要なことでしょう。特に、あなたの今の状況をしっかりと見せておくべき者が何人もいるのですよ」
ああ~。
まぁ、そうでしょうね~。
わたくしは納得します。
やはり政治の世界。
わたくしがいきなり特権待遇になったことを快く思わない方々が何人もいらっしゃるということでしょう。
そう言った方々に挨拶する機会をわざわざ設けて下さった。
もちろん、それはパーティー主催の主目的ではないのでしょうけれども、その用事も兼ねることができる、と。
そうレン殿下はおっしゃってくださっているわけです。
本当にそつがないところが、さすがこの大公国で将来将軍になることは確実と言われる方だけあります。
「セルバトスもどう思いますか?」
わたくしは先日執事に就任した(本当は守護霊)セルバトスにも意見を求めますが、
「大変良い機会なのではないでしょうか。マイマスター。思い知らせてやりましょう」
「はい?」
思い知らせる?
「いえ、言葉のあやというものでしたかね」
そう言って、微笑むのでした。
「もー、意味が分かりません!!」
わたくしがいじけた様子を見せますが、やはりお三方は微笑んだままです。まったく意味不明なのですわ。
というわけで、次の日の朝から着付けのメイドたちがわんさかとやってきて、わたくしの髪を結ったり、ほどいたり、色々していったのでした。
わたくしは余りそういうのに興味が無いのですが、メイドたちは何か美しい宝石でも見るかのようにわたくしを見つめてはため息をつきながら、
「なんと、もったいない!!! 毎日髪に油を使ってください!!!」
いや、そんなもったいない。
「磨かれる原石ここにあり!!!」
石なんてこの家にあったかしら?
「笑ったらもっと映えますのに! いえ、秘めた笑顔を想像させてこそ華なのかもしれません! ああ、美の奥は深い!!」
哲学者メイドさん?
「せっかくの銀髪なのですが、やはり黒をふんだんで使いつつも、無駄なくでも美しく! そうもっと! もっとなのよ! ああ! お奇麗ですよ、カナデ様」
お世辞でも嬉しいですね。
でも、何だか全員テンションがおかしありませんか?
というか、主賓でもないのに、これほどおめかしをする必要があるのかしら。
というか、そもそも母国でも、これほどおめかしをしていただいたことはないのですが……。
とそうこうしているうちに、着付けが終わりました。
お城から寄越された馬車なので、ちゃんと顔パス。すんなりとお城のパーティー会場へ、無事到着します。
そしてそこは、
「なんてすごい。豪華なパーティーなのでしょうか……」
おおよそ、見たことのない豪勢な料理や調度品の数々。
そして多くの貴族たちがひしめきあう、おそらくこの世界で最もきらびやかでお金のかかったパーティーなのでした。
なめてました。これがブリュンヒルト大公国の社交界というものなのですね。
ですが、逆にこれは
(しめた!)
と思ったのです。
だって、これだけの人数がいれば、わたくしが目立つ可能性なんてゼロ。
適当に挨拶をすませたら、あとはテーブルに並んだお料理を片っ端から胃袋におさめていく、楽しいパーティーが待っているだけなのですから。
(殿下、誘ってくれてありがとうございますですわ! パーティー楽しませて頂きます!!!)
そうルンルン気分で会場に降り立った、その時でした。
「な、なぜ貴様がここに!?」
そんな声が聞こえて来たのでした。
(続きます)
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