隣国の人質ですが溺愛され、更に私への母国の扱いに激怒した公爵殿下が罰を下すと言ってます。私は気にしていないので、母国の重鎮は早く謝りに来てください。許す準備は出来てますから、はぁ
第17話 一方その頃、追放メンバーたちは、呪詛返しを受けて、余りの苦痛にのたうち回る
第17話 一方その頃、追放メンバーたちは、呪詛返しを受けて、余りの苦痛にのたうち回る
~ 一方その頃、ペルニシカ皇子たちは ~
「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいええええええええええええええええええええええええええ!??!?!?」
突然の頭痛と吐き気、腹痛に部屋の中を転げまわっていた。
「ペ、ペルニシカ皇子様!? ど、どうされたのですか!?」
シルビアが俺のことを心配して声をかけてくれる。だが、明らかに俺の突然の奇行に腰が引けていた。
それが俺と言う人間には余りの侮辱に思えて、はらわたが煮えくりかえった。
部屋にはシルビアや、アレックス、ルイスにハイネといった、カナデをまんまと追放した俺の女と取り巻きどもがいる。
そんな身内に、あまりに無様な姿をさらけ出してしまう。
だが、
「くそくそくそくそくそくそがああああああああああああああああああああ!!!! いでえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」
分かっていても、余りにも激しい痛みと吐き気に、飲んでいたワインや豪華な食事を床にぶちまけることも構わず、のたうち回るしかないのであった。
「くそ!! そ、そうだ!! シ、シルビア!!! お前も聖女なら回復魔法をっ……!!!!」
俺は名案を思いついたとばかりに、
しかし、
「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」
「!?!??!?!」
俺は痛みで一瞬、自分の目がおかしくなってしまったのかと疑う。
だが、それは錯覚ではなかった。
残念なことに!
「ふんぎいいいいいいああああああああああああああああああああ!?!?!?!」
まるで猿の如く。
いつもの可憐なるシルビアの姿は影を潜め、まるでどこぞの野生動物の如く、俺が先ほど見せた醜態とまったく同じ光景を、シルビアも少し遅れて演じ始めたのである。
今まで優雅な手つきで飲んでいたワイングラスは放り出されて壁にたたきつけられ、ソファには投げ出された料理の残骸が散乱している。
「お、おげええええええええええええ!??!?! な、なんなんですかぁ!? いきなりこれは!? き、気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! まるでまるで、何か呪いを受けているかのような、この激痛と吐き気は! おええええええええええええええええ」
「くっ、シルビアまで!?」
俺は舌打ちする。何とか回復魔法を使わせたかったのだが、俺の声は一向に届きそうにない。
「おい、シルビア! 俺に回復魔法を! シルビア!!!」
「はぁはぁ、だま、少しお静かにしてくださいまし、皇子。ま、まずは、わたくしが自分を回復したあとに、皇子を回復致しましょう。そ、そうでなくては皇子に対して確実な回復魔法を発動することが出来ませんからね。皇子こそ、この国の至宝。間違いがあってはなりませんから。おえっぷ」
「ぐっ!?!?? そ、そうか。こんな状況であってもさすがの気配り。さすがシルビアだ。だが、婚約した俺とお前の仲。今はそのような些事にとらわれずとも良いのだぞ、んぎぎぎぎぎぎぎ」
「ほ、ほほほ。ありがとうございます、皇子おえっぷ。そのお言葉を頂けただけでシルビアは果報者ですわ」
奥ゆかしい女だ。
そんな奥ゆかしいシルビアに更に、俺に回復魔法を使うように催促しようとした、その時であった。
「ぐぎい!??! うぐっぐぐぐ!?!?!?!? ああああああああああああああ! 頭がわれるように痛い! そ、それに腹も! うぐ、おげえええええええええええええ」
「ぐはっ! まるで鈍器で頭を殴られたような痛み! それに妙なめまいまでしてきました。これは……一体どうしたことですかっ……!」
「ううううううううううううんん!!! 頭が痛すぎて考えがまとまんないよ! お姉ちゃん、お願いだから僕に先に回復魔法かけてよ!!!!!! 一生のお願いだからさ!!!!!」
俺やシルビアだけでなく、カナデを追放したメンバーである、アレックス、ルイス、ハイネというメンバー全員が、ほとんど一斉に同じ苦痛にのたうち回り始めたのだ。
先ほどまでの優雅な食事会は終焉を迎え、今や部屋は
「ば、馬鹿を言うな、ハイネ! 一番年下のお前は最後に決まっている。まずはこの第一皇子たる俺が先に決まっているだろう! ぐうううううう、いでええええええ」
「ずるいよ! ずるいよ! まずは年下のいたいけな僕を優先するべきだよ! あああああああああああ!!! いだいいいいい」
「お、おほほほ! お待ちになって! しゅ、集中できない。だ、黙ってもらわないと、おええええええ。余計に集中できませんわ。回復魔法が使えない、ぐげ」
「こ、この際順番などどうでもいいでしょう。頭脳明晰な私を治癒してください。そうすれば、私が皆さんを早急に回復させる素晴らしいアイデアを思いつきますから!」
「馬鹿言うな! 俺だって第二皇子なんだ! 第一皇子なんだったら気概をみせて、俺に譲るべきだ! ぐがががががががが」
嗚咽。
愁嘆。
怒声。
罵倒。
様々な感情が爆発し、一向に進まない回復。
また、密談をするつもりだったので誰も部屋に寄り付かない様厳命していたために、それからその呪いの如き苦痛は一晩中続いたのである。
「ぐぞう! ぐぞう! 一体なんでこんなごとにいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
俺の怨嗟の声が部屋に大きく
~カナデ視点~
「
「その通りです、マイマスター」
早朝。
食卓を囲みながらの何気ない会話で、私の疑問にセルバトスが答えました。
「セルバトス、お前は悪霊ではないと言っていなかったか?」
「ブリューナク殿下のおっしゃる通りです」
『呪詛返し』
その答えにブリューナク殿下とレン殿下が怪訝な表情を示しますが、セルバトスは
「無論、無暗に人を襲ったり、呪ったりといったことはしません。しかし、この屋敷には様々な悪意ある仕掛けを施したものがいるのです」
「あっ、そう言えば、火の魔石の容量が小さくてお湯がぬるかったですわ」
「ええ。他にも色々な、悪辣な仕掛けが無数にあります。昨日全て取り外しておきましたが……。要はそういった悪意、すなわち『呪い』は、万が一発動しなかった場合、仕掛けた者たちへかえる。つまり『呪詛返し』となるのです」
「確かにそれは呪い魔法の基礎にも書かれていることですね」
レン様も頷きます。
「でも、どれくらいの呪詛返しになったのでしょうか?」
わたくしは思わず心配そうに聞きます。
すると、お三方は不思議そうな顔をされました。
あれ、どうしたのでしょうか?
「それは呪った者の悪意の量に比例したはずだが……。しかし、カナデ嬢よ、なぜそんなことを聞くのだ?」
「えっ、それはもちろん。呪った方が無事だと良いと思いましたので」
「「「えっ!?」」」
「え?」
三人が驚きの声を上げたのが以外で、私も驚きの声を上げてしまいました。
ブリューナク殿下が不機嫌そうな声で言います。
「なぜだ。お前を呪おうとした相手なのだぞ? それ相応の報いを受けさせてやるべきであろうが」
「ええ、いっそ滅ぼすべきかと」
「わたしも同意いたします」
「あはは、ちょっと過激すぎますよ~」
私は苦笑します。皆さん冗談なのでしょうが、ちょっと表現が過激すぎですよね。
ですが、なぜか皆さん表情は真剣そのものです。
うーん、どうしてなのでしょう。
「逆に、
セルバトスが聞きます。
「いえ、別に理由というほどではないですけども……」
私は首をちょこんと傾げてから、
「こうしてセルバトスさんや、それにお二方も私を心配して助けに来てくれたのですから……」
私はちょっと考えながら、
「そんな嬉しい思い出を作ってくれただけでも、呪った方に感謝したいくらいなのですわ」
そう言って微笑んだのでした。
すると、どういうわけか、皆さんポカンとされた後。
「ふふ、くくく、ふははははははは! さすがカナデ嬢だ。面白い女だ!」
「面白いかどうかはともかく、大事な思いでですか。何だか嬉しいですね」
「ええ……。ヨルダお嬢様と同じくらい、私は素晴らしい主に巡り合えたようです」
なぜか笑い出したり、微笑ましいものを見るように、わたくしを扱うのでした。
一体どういうことなのでしょうか?
ともかく。
何はともあれ、こうしてわたくしは、今後長い長い付き合いとなる美しくも氷のような怜悧な容貌を持つ黒き執事と出会ったのでした。
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