隣国の人質ですが溺愛され、更に私への母国の扱いに激怒した公爵殿下が罰を下すと言ってます。私は気にしていないので、母国の重鎮は早く謝りに来てください。許す準備は出来てますから、はぁ
第3話 婚約破棄された悪役令嬢は隣国への移送中に同行する男性を助け、その才能に驚かれる ~その1~
第3話 婚約破棄された悪役令嬢は隣国への移送中に同行する男性を助け、その才能に驚かれる ~その1~
パッカパッカ!
私は今、隣国ブリュンヒルト大公国に向かう馬車に揺られていました。
人質ですので、もっと雑な扱いかと思っていましたし、母国ロズイル公爵領の者たちの扱いはまさにそんな感じでした。
しかし、隣国ブリュンヒルト大公国から寄越された馬車は、さすが大公国だけあって非常に良い仕立てで、特にデコボコ道の多い母国の道でもほとんど揺れずに街道を走ってゆきます。
ただ、だからと言って気を抜けるかと言えばそうではありません。
なぜなら、私の目の前には隣り合うようにして二人の男性が座っているからです。おそらく人質の私を連行するための兵士といったところでしょうね。
一方は金髪で美しい碧眼が特徴的な男性。もう一方は逆に黒髪、黒目ですが端正な顔立ちで誠実な人柄を思わせる物腰の落ち着いた男性で、対照的な印象です。
ただ、二人の会話には微妙に違和感がありました。
と言いますのも、
「いやぁ、久しぶりの
「はぁ……。全くそうは思いませんよ、ブリューナク様。それに今の私はただの部下です。あまり砕けた態度はどうかと」
「まったくお堅い奴だな、お前は。そんなことでは女にモテんぞ?」
「そういうのは結構です」
こんな感じの会話を二人でずっと続けているのです。
人質を移送する兵士にしては砕けすぎのような気がするのですが……。
まぁ、でもこういう出張任務なので、きっと羽目を少し外しているのでしょうね!
でも、なぜか私には、兵士の上司と部下と言うよりも、何でしょうか、主人と執事のような、そんな風にも見えるんですよね……。
いえ、視野の狭い令嬢の私の見当違いに過ぎないに違いないですね! うん!
「ところでカナデ・ハイネンエルフ侯爵令嬢?」
「あ、はい?」
突然私に話が振られたので、つい間抜けな返事をしてしまいました。
いけないいけない、ちょっと王宮を追放されたおかげで、若干今まで取り繕っていた第一皇子の婚約者という窮屈な仮面が外れかかっているようです。
「聞いた話によると、あなたはペルシニカ第一皇子の婚約者だったが、学院における同級生へのイジメや日ごろの悪行や態度によって皇子に婚約破棄された。それを認められなかったあなたは皇子に決闘を申し込んだが敗北し、厄介払いもかねて我が国の人質になった。……と言う話だが本当なのか?」
「ブリューナク様、いくら何でも露骨すぎますよ。レディに対して失礼では?」
「良いではないか! なんのために俺がこんなところまで来たと思っているんだ。こんな面白い話があると聞いたから、わざわざやって来たのだぞ!」
「とにかくダメなものはダメです。彼女だって答えたくないに決まって……」
「ああ、いえいえ。全然問題ありませんよ?」
「へ?」
レン……と呼ばれた従者の方が以外そうに目を開かれました。
その表情は少し可愛らしいです。
「ただですね、私にはどれも身に覚えがないのですが。そもそも実はまだペルニシカ殿下の婚約破棄の理由がよく理解できていませんから」
私は冷静に言います。
「理解できていない?」
一方のブリューナク様はちょっと驚いた表情を見せますした。
はい、と私は頷きます。
「私たちの婚約はいわば母国のためのものでしょう? なら私が万が一イジメをしていたとしても……。いえ、していませんし、するべきではないですし、そもそもそんな暇なんかあるはずがないんですが。そんな理由で婚約を破棄するなんて、ちょっとどうにかしていると思わざるをを得ないのです」
「それは」
「そうですね」
ブリューナク様とレン様が顔を見合わせて頷いた。
そうなのです。貴族の結婚とはあくまで国のもの。国民のためのもの。だから、おいそれとそれを破棄するなんてことは絶対に許されることではないのです。
これ、貴族の常識です。
「あと決闘は向こうから申し込まれたのですわ。しかも折れかけた剣を渡されたのです!」
「なに! それはひどいな!」
「そうなのです! ちゃんとした剣でしたら、絶対に負けたりしませんのに!!!」
「……ん?」
なぜかブリューナク様が首を傾げた。
「そこなのか? 裏切られて。騙されてショックだとか……」
「いえいえ、そこは私の油断でしたので反省しているのですわ」
「えっ」
またしてもブリューナク様が驚いた顔をされました。
なぜでしょうか。
ともかく。
「剣筋も全部見えていましたし、隙だらけでしたので、けがをさせないように剣を弾き飛ばそうとしたら、こちらの剣が折れてしまったのですわ。しかも、決闘と言われたので一対一かと思いきや、背後からその新しい婚約者にスリープの魔法をかけられる始末! 油断しましたわ。ね? 反省せねばならないでしょう?」
ですが、なぜかお二人は納得のいっていないような表情で、
「いや、それは相手が余りにもズルいのではないか?」
「はい。王族の風上にもおけない所業かと……」
と、おっしゃりました。
「いえ、戦闘においては何が起こるか分かりませんからね。こちらの油断ですわ。剣が折れたくらいで驚いてしまって。ただ、ドレス姿だったから足が使いづらかったんですよね。今度来たら蹴り倒して差し上げるのですが」
ブツブツと悔悟の念を漏らしたのでした。
ただ、そんな風に私が独り言を言っていると。
「くっ。くっくっくっくっ」
「ふ、ふふふ」
なぜかお二人が笑いをこらえきれないとばかりに、口元を手で覆っていました。
「あの、お二人ともどうかなされましたか? わたくし、変なことを申し上げましたでしょうか?」
「ああ、いや。ふ、ふふふ。いや、待て。今は話しかけるな。いちおう、なんだ、身分相応の沽券というものがあるのでな。大笑い、抱腹絶倒の姿を見せるわけにはいかん」
「?」
私は首を傾げます。
やっぱり変なことを申し上げたのでしょうか。
はぁ、とため息をつきます。こんな調子ではこれからの人質生活の前途多難さが思いやられますね。
と、そんな会話をしていた時でした。
突然、
「うっ!」
従者であるレン様が胸をおさえて、苦悶の表情を浮かべたのです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます