第10話 一方その頃、追放メンバー全員は浮かれるが、突然の知らせに驚愕し悔しがる

~一方その頃、ロズイル公爵城の一室では/シルビア・アノワンク視点~


「あーはっはっはっは! いい気味だ! あのクソ生意気な侯爵令嬢を全員の前で堂々と断罪して、しかも国外追放までしてやったんだからなぁ!!!!」


「はい。本当に素敵でした、ペルニシカ皇子のやることなすことをイチイチ批判をして。一体何様のつもりだったのでしょうか。魔女とはああいう者を言うのです! ……ですが、こうして悪は追放され、皇子や私たち正義にくみする者たちだけが残ったのですから、やはり神様は正しい者たちの味方なんですね。私たちは真の正義の味方なのですわ!!」


「その通りだ! ああシルビア、君は本当にすばらしいことを言うね。まーったく、あの鬱陶しいカナデ・ハイネンエルフをこうもあっさりと追放出来るとは思わなかった。これもすべてシルビア、そして、アレックス、ルイス、ハイネ、お前たち親友のおかげだよ」


ペルシニカ第一皇子がそう微笑まれると、彼らも屈託なく朗らかに笑われます。


「お飾りの婚約者のくせに出しゃばりが過ぎる女だったからな。ふっ、それに玉座の間での決闘! 誰も彼女の助力に現れなかった。俺たちが正しいことが証明された証というものだろう」


そう赤髪が特徴のワイルドなアレックス様が気分良さそうにワインをあけられます。


「おっしゃる通りですわ。でも当然ですわね。正義は私たちにあったのですから」


私が同意すると、アレックス様はさらに気分を良くしたようでした。


すると、ハイネ様も口を開き、


「しかも、戦った後、簡単に気絶までしちゃったしね! それを優しいシルビアお姉ちゃんに治してもらってたよ! 本当にダサいよね、あのカナデ侯爵令嬢ってば♪」


「傷ついた人を放っておくことは出来ませんから……」


「さすがシルビアだ! イジメまで受けていたのに、それを意にも返さず……。聖女と言うにふさわしい」


「当然のことをしたまでですよ……」


私は優し気に微笑みます。その表情に、他の男性たちが見とれるのが分かりました。


それに、うふふふふ。


どうしても笑いが止まりません。もちろん、内心にとどめながらですが。


「ブリュンヒルト大公国ではどのような扱いを受けているか。あの国は実力主義という野蛮な制度を敷く、急速に領土だけは広げた成り上がり国家。人質ともなればどんな目にあわされるか分かったものではありません。魔女とはいえ、一時とはいえ、同じ学院の生徒でもあった方。どうしても心配をせずにはいられません」


「それは当然のことだ。君が気に病むことではない。だが、くくく、おそらく相当ひどい目にあっていることだろうなぁ!」


わははははははは!


皆さんが笑いました。私もあわせて微笑みます。本当は声を大にして笑いたいのですが、はしたないでしょうからね。


ルイス様も知的な風貌に思慮深さをにじませながら、淡々と口を開きました。


「それに、皆の力であの魔女を追放できたおかげで、更なる僥倖があります。どうやらあの女が裏で下級貴族どもを操り、政務が滞っていたようなのです」


「まぁ!」


「本当なのか!」


はい、とルイス様は頷き、


「我が国特産のミスリスですが、その生産速度が遅くて他国よりクレームが来ていました。しかし、幾らギルドに言ってもその増産速度を早めることは出来ませんでした。何やかやと、理由にもならない理由をつけて、です。そして、それもカナデやその取り巻きの下級貴族どもの入れ知恵と妨害があったためだったのです!」


はぁ、やれやれ、とペルニシカ皇子がその報告に嘆息します。私も同様でした。


と、同時に二人して微笑みあいます。


「この国の基幹産業にまで魔女の手は入り込んでいたのだ。下級貴族など俺たちの言うことを聞いていればいいものを……。だが、その元凶をシルビアのおかげで他国へ追放することが出来た。まさに君は救国の女神だよ」


「私など。ですが市井の者である私の助言などを聞き届けてくださり、正しき剣を振るう決断をされたのは、皇子たちです。私は何もしていません」


「いや、これも俺の婚約者として、病める時も健やかなるときも、一緒にいてくれ。君さえいてくれれば、俺が正式に王となる日も近いだろう」


「嬉しいお言葉です。皇子」


私は頬を赤らめ、微笑みます。これからの豪奢な宮廷生活を思えば、興奮をおさえることは難しいのは当たり前でした。


と、そんな風に、私たちがあの邪魔なカナデ・ハイネンエルフ侯爵令嬢を追放し、きっととんでもない目にあわされていることを想像して酒の肴にしていた、その時でした!






「で、伝令!!」


顔を真っ青にした子飼いの部下が、私たちの部屋へ飛び込んできたのです。


そして、


「カ、カナデ・ハイネンエルフ侯爵令嬢について情報が入りました!」


そう告げたのです。


「あら、処刑にでもされましたか? それとも、永久に地下牢への幽閉でしょうか? どちらも身から出た錆とはいえ、わがことのようにつらい……」


そう私が悲しみに暮れた表情で口を開きますが、それを遮るように伝令兵は、


「カナデ・ハイネンエルフ侯爵令嬢が国賓級の待遇となることが、全家臣一同の前で宣言されたようです!」


「は? なんとおっしゃいました?」


は?


は?


国賓?


人質なのに、国賓級?


そんな馬鹿なことがあるわけがない。


何を言っているのかしら。この伝令兵は。首をはねたほうがいいのかしら?


しかし、伝令兵の口からは更に驚きの言葉が吐かれたのです。


「そ、そのうえ! シャルロー・エリゼ侯爵夫人が後見人としてつかれたようです! あのブリュンヒルト大公国の『無敵』とうたわれた次期大将軍レン様のご母堂に当たる方です!!」


「はああああああああああああああああああああああ!?!?!?」


「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!??!?!?」


私だけでなく、皇子やその親友たち全員。彼女を追放した一同が一斉に驚愕の声を上げたのでした。


(続きます)

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