隣国の人質ですが溺愛され、更に私への母国の扱いに激怒した公爵殿下が罰を下すと言ってます。私は気にしていないので、母国の重鎮は早く謝りに来てください。許す準備は出来てますから、はぁ
第12話 ペルシニカ第一皇子たちからの嫌がらせ
第12話 ペルシニカ第一皇子たちからの嫌がらせ
~カナデ視点~
「あらあら……」
私は額に手を当てながら呟きました。
「これはなかなか……。うーん、褒めるところが一切ない、ひどいお屋敷ですわねえ。今日からここに住むと思うと、なかなか難儀ですわね」
そう言って銀色の髪をクリクリとします。
本気で困りました。どうしたものかしら。のポーズです。
貴族街の端の方。
いかにもみすぼらしい一角に、その粗末な建物はたっておりました。
城から遠くて、いつの間にか夕方です。人質の私に馬車などありませんので、徒歩で来たら、めっちゃ時間がかかったのでした。
城の方々には母国が用意してくれた屋敷があるので、と言って出てきたのです。
しかし、
「元は大きくて立派なお屋敷だったっぽいですし、手を入れさえすれば映えそうですが……」
今は見る影もなく、壁ははがれかけ、薄汚れ、雑草の手入れは破棄されて何年もたっているようです。窓ガラスはところどころ割れていますし、扉は開けるのと同時に蝶番がはじけ飛びそうなほどです。
それに、どこかそれだけでは説明がつかないような物悲しい、うすさびれた感じがします。
ちょっと、人の住める環境ではないと言っても過言ではありません。
さて、どうしてこんな廃墟にわざわざ住まないといけないかと言えば、
「あくまで私は彼らロズイル公爵領から差し出された人質ですからね」
ロズイル公爵領の意向に従う必要があるのです。
いくら大公殿下から特別待遇と言われたからと言って、勝手に家を移ったりするわけにはいかない訳です。
ただ、それにしても、
「ペルニシカ皇子たちの嫌がらせ徹底してますわね……。よく見つけましたわね、わざわざこんな物件を他国で」
若干、怨念じみたものを感じます。
この屋敷は私を追放した彼らが用意したもので、これから私の生活は一生この廃墟で行われることになります。
「そう言う意味では、なかなか効果的な嫌がらせですね」
特に!
「昨日のフカフカベッドの味を知ってしまった私にはダイレクトダメージですわ!!!!」
一度知ってしまった蜜の味を忘れることが出来ないのが人間です!
ああ、こんなことなら、昨日あれほどフカフカベッドの味を堪能するんじゃなかった!
ですが、後悔しても後の祭り。
「ともかく、このまま夜を迎えるわけにもいきませんし。貴族街とはいえ、夜は危険ですからね」
それになぜか少し冷えてきました。
さっきまで温かいくらいだったのですけれど……。
「まぁ、とりあえず入ってみましょう」
私は勇気を振り絞って、その廃墟へ足を踏み入れたのでした。
心なしか、何か化物の口を通るような錯覚に陥ったのですが、
「き、気のせいですわよね~」
鼻歌などをうたいながら、なんとか足を前に進めたのでした。
「ふー。いちおうお湯も使えましたわね……」
私はお風呂から上がると、いちおうざっと掃除した寝室に帰ってきました。
汚いお風呂でしたが、ごしごしと汚れを落としたらいちおう奇麗になったのです。
それに、なんと火の魔石が生きていたのは幸いでした。
魔石というのは、ある種の力を閉じ込めたもので、例えば火の魔石でしたら、微量の魔力を与えることで熱を発する力を持っているのでした。
それを使って水を温め、お湯にして、お風呂に入ったのです。
で・す・が、
「微妙にぬるかったですわ! 絶妙にぬるかったですわ!」
嫌がらせが、あまりに、うますぎます!
火の魔石のマナ量がだいぶ減っていたせいで、あったまるはあったまるのですが、お湯が、
「微妙に熱くならないのですわ!!」
ちょっとお湯から出ると、寒い! ってなる程度にしかあったまらないのです!
私は肩までしっかりつかって、あったまりたいタイプなのです!
「ま、まさかそこまで知っていての嫌がらせ……」
この件は、ハッキリ言って、廃墟に住むことを強要されたことよりも、よほど私の心にダメージを与えました。
「こんなのひどいですわ。あんまりですわ」
私は初めて彼らの仕打ちに心を痛めたのでした。
やっていいことと、悪いことがあるというものでしょうに!
なので思わず
「お風呂の恨み、うらめしや~」
そんな言葉を口にしてしまっていたのでした。
しかし、その時、
『うーらーめーしーやー?』
は、ひ?
それは、私からではない、別の方の声でした。
私は生まれて初めて、声にならない声を上げます。
なぜなら、目の前には、
「お」
黒髪を長く伸ばした、
「お」
下半身がすけている、
「お」
足がな、な、な、な、ない!?
「お・ば・け~!? なのですわ!? え!? え!? え!? ひえへ!?」
そして、
「きゃあああああああああああああああ!!!!」
わたしの絶叫が、廃墟の屋敷に鳴り響いたのでした!
まさか、こんな、最大級の悪質な嫌がらせまで用意してるなんて~!!!!
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