十一話 先輩の鍵、見つかる
「先輩! 鍵見つかりましたよ!」
「由崎君!」
俺は家に帰ると、何よりも先に先輩に報告した。先輩は俺の顔を見るや否や、安心したような、でも少し心配しているような、複雑な顔をしていた。
「ドロドロだけど大丈夫?」
「……確かにドロドロで汚いですけど全然平気です!」
「それならよかった」
先輩はふぅと安堵の息を漏らす。
先輩に言われて気づいたけど確かに制服とかドロドロになってる。これなら心配されてもおかしくないよな。
「そうだ! お湯も入れ替えたから由崎君お風呂に入ってきて。そのままじゃ寒いでしょ?」
自分のだらしない格好を見ていると先輩にそう提案される。
「お湯入れ替えたんですか?」
「うん。ダメ、だったかな?」
「あ、いえ! ありがたいくらいです」
「……そう?」
「はい、あっでも! 先輩の入った後のお湯が嫌とかいうわけでもなくて……」
「わ、分かってるよ」
「…………」
「………………」
「お、お風呂行ってきます!」
「う、うん! それが良いよ!」
なんだか変な雰囲気になってしまった場から離れるかのように、お風呂へと向かった。
「ふぅ……」
簡単に体と頭を洗って湯船へと浸かる。
さっきまで雨に打たれていて冷えていた体が温まっていくのが感じられる。
「先輩。元気になってくれて良かったな」
さっき話してみて明らかに元気になったのが伝わってきた。鍵が見つかる前は、多少無理しているのが顔にも出ていたけど、今は本当にいつも通りの先輩だった。
これは鍵を見つけてきた甲斐があったなと、勝手に満足してしまう。
「お風呂も心なしが綺麗になっているし、洗ってくれたんだろうな」
先輩はああ言っていたし、俺の家の風呂に入った事に少し罪悪感を感じているのだろう。だから、せめてものお礼としてお風呂を洗ってお湯を張り替えてくれた。
「先輩が入った後のお湯か……」
もし、お湯を張り替えていなかったらどうだっただろうか。
などと不埒な妄想をしてしまう。健全な男子高校生だ。美少女の後のお風呂に入ってしまったら、そんなことを考えてもおかしくはない。
「いやいや、こんなこと考えたら先輩に失礼だよな」
頭を振って妄想を吹き飛ばす。
そして、そろそろ出ないと先輩も暇しているだろうと、思いお風呂から上がることにした。
少し前屈みでゆっくりと立ち上がった。
「ハックション!!」
お風呂から出て体を拭いている時に、大きなくしゃみが出てきた。それと同時に寒気のせいか、体を震わす。
「……こんだけで風邪引くことなんてないよな」
明日も学校があるし、少し心配になってくる。まぁしっかりとお風呂にも入ったし、今日は早めに寝ればなんとかなるはず……。
「先輩! お待たせしました」
「おかえりなさい。体冷えてるかもって思って雑炊作ってたからどうぞ」
「おおー! ありがとうございます」
お風呂場から小走りでリビングへと戻ると、先輩が熱々の雑炊を準備してくれていた。
「こんな、何から何までしてもらって申し訳ないです」
「ううん。これくらいはさせて欲しいの。今日は本当に助かったから」
「まぁ、そういうことでしたら」
先輩の理由に納得しつつ、目の前にある雑炊に我慢できずにスプーンを手に取った。
「いただきます」
そう囁くように呟いて、スプーンいっぱいに掬われた雑炊を頬張る。
「あっふ……めちゃくちゃ美味しいです!」
「良かった。沢山あるからどんどん食べてね」
「はい!」
もう夜ご飯どきになっていたということもあり、手が止まることがなくどんどんと掻き込んでいく。
「あっそうだ。由崎君」
「どうかしましたか?」
「鍵ってどこにあったの? 私も一通りは探したはずなんだけど」
「それはですね……」
鍵が落ちてあった場所のなんとなくの位置を説明する。
「そんな所に……」
「草むらに隠れてましたし見つけれなくてもしょうがないですよ」
「でも、それを見つけてくれたんでしょ?」「運が良かっただけですよ」
「それでも本当に助かったの。改めて、ありがとうね」
先輩は頭を下げてお礼を言ってくる。確かに鍵を見つけたのは事実だが、運が良かっただけだ。俺だって見つけれていたという保証はないし、そこまでされても困ってしまう。
「そんな! 頭を上げてくださいよ。それにありがとうはこっちのセリフですし」
「私のだよ」
「俺のです」
「……っふふ。なに言い争ってるんだろうね。私たち」
「確かにそうですね」
なんだか不毛な言い争いは二人の笑い声によって強制終了となった。
「とても美味しかったです」
「良い食べっぷりだったよ。小さい鍋が空になるほどだったし」
「とても美味しかったから、当たり前です」
「それは嬉しい限りだよ」
先輩はそう言いつつ食器を片付けようと席を立つ。
「あっ片付けくらいは俺がやります」
「お礼なんだから由崎君はじっとしててね」
何もかも先輩にやらせるのはまずいと思って立ちあがろうとしたものの、先輩に抑えられてそのまま座るしかなかった。
先輩が洗い物をしている間、何をしようかと辺りを見渡すとこの家では見慣れないようなものが置いていることに気がついた。
真っ白な生地にところどころ模様が入っているもの。
「……なんだろう……」
持ってみると綺麗に畳まれていたものがひらりと広がって、全貌が明らかになった。三角ぽい形をした。
「し、下着!?」
お、おちつけ! なんでこんな所に下着が……。
そう言えば先輩結構濡れていたし、そんな下着をつけるのは嫌だろう。だからと言って替えなんて持ち歩いているだろうか。
先輩のいる方とと下着を交互に見ながら、ゆっくりと考える。
「先輩もしかして、下着つけていない……。上も下も……」
いや、考えてみれば当たり前なのだ。どうしてもっと早くに気づかなかったんだろうか。
ってそんなことを考えている暇なんてない!
俺はすかさず下着を畳んで、先輩のカバンの中へとこっそりと入れる。
それからしばらくして先輩が戻ってきた。
「うん? 何かあった?」
「い、いや、何もないですよ」
「えー!? 顔も赤いし、息が荒くなってるよ。もしかして風邪ひき始めた?」
「そんなことはって……な、何してるんですか!」
「何って体温計もないしこれが手っ取り早いでしょ?」
先輩は自分の額と俺の額をくっつけて体温を測ってきた。
ただでさえダボダボの服を着ているせいで下を向いたら先輩の霰もない姿が見えてしまう。それはダメだと理性がこれまでにないくらい働いている。
その代わりに鼓動がどんどんと早くなっていく。このままじゃ発作を起こして死んでしまう。
「だ、大丈夫ですよ」
俺は出来るだけゆっくりと先輩から離れる。
「本当?」
「はい。それよりも先輩も雨に濡れてますし。明日も学校もありますし、今日は家に帰って休んだ方が……」
「うーん……。それもそうかな。おでこでやってみた感じ、今のところは大丈夫そうだったし」
うーんと少し不審に思いながらも俺の言葉に納得してくれたみたいだった。
俺もその方が助かる。今だけは先輩と一緒にいるのはダメだ。
「あ、服はちゃんと洗って返すから」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあまた明日ね」
「はい」
満面の笑みで手を振って別れを告げてくる先輩を横目で見ることしかできなかった。
下着をつけてないと分かっただけでここまで意識してしまうのは何故なのだろうか。
「……はぁ。なんだか余計に疲れた気がする……」
先輩が家から居なくなった後、猛烈な疲労感に襲われそのままベットに倒れ込んだ。
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