隣に住んでいる聖母な先輩が俺にだけみせる姿が可愛すぎる!
鳴子
一話 西園寺先輩
「由崎君! 助けて!」
「西園寺先輩!? どうしたんですか!」
もう九月の終わりだと言うのに蒸し暑い夜。パジャマ姿の西園寺先輩が今にも泣き出しそうな様子で、助けを求めてきた。
西園寺麗奈
俺の学校では学年が違うにも関わらず毎日名前を耳にするような人物。
そんな人気を支えている理由がいくつかある。
その一つが容姿だ。
紺色で艶のある長髪、宝石のようにキラキラと美しく大きな瞳に加えて、白い肌はどこを見ても透明感がある。完璧な容姿からふりまかれる笑顔は犯罪級である。
その上体つきは細いのに、出るところはしっかり出ているという完璧なスタイル。見た人十人が十人美女と即答するだろう。
二つ目が性格の良さだ。
一年生の頃から今の二年生になるまで生徒会副会長を務めており、忙しいにも関わらず、どんな状況でも困っている人を助ける。
どんな相手にも変わらず優しく接してくれる。
どんなに忙しい時でも笑顔を忘れない。
そんな先輩を嫌う人がどこにいようか。
「正に聖母だ」
誰かがそんなことを言うと瞬く間にその呼び名が広がっていった。
その完璧な容姿、どんな状況でも滲み出ている性格の良さ、男女関係無く好かれる先輩にふさわしい呼び名だと思っている。
この学校で一番有名で人気と言っても過言ではない人物。
そんな人物がマンションで隣の部屋に住んでいたらどう思うだろうか。
多くの人は羨ましがるだろう。もしかしたら仲良くなって付き合えるかもしれない、そんな妄想だって無限に膨らむ。
俺も高校に入学するとともに一人暮らしを始め、隣に住んでいるのが学校一の美少女だとわかった時はとても喜んだ。
何かが起きて近づける、仲良くなれる、付き合える……そんな幻想が半年も続けば現実に気づく。
ただ隣に住んでいるからと言って何かが起きるはずでもなく、この半年間話したのはたった数回である。それなら同じクラスだった方がまだ近づける可能性が高い。
自分だってお裾分けを持っていこうだったり、偶然を装って一緒のタイミングで家を出るだとか、仲良くなろうと努力した時もあった。
しかしそんな勇気が出ているなら、既に仲良くなることは達成しているだろう。
今となっては完全に先輩を諦めている。
元はと言えば容姿だけで好きになったようなものなので、そう思えば諦めは早かった。
そう、諦めたはずだったのだ。
「由崎君! 助けて!」
「西園寺先輩!? ど、どうしたんですか!?」
勢いよくインターホンが鳴り、何事かと扉を開けると西園寺先輩が無防備なパジャマ姿で立っており思わず、目を背ける。
「歯磨きしようと洗面台に行ったらね……。黒光りした……あれが……カサカサと」
「黒光りしたあれ?」
顔が青ざめて、少し震えながら説明してくる先輩。その反応も相まって、考える間も無く何か分かった。
「ゴキブ——」
「名前は出さないで!」
「あっすみません……」
思いの外ガチな口調で言われたので反射的に謝ってしまう。
先輩がここまで虫が苦手なのは意外だった。
「それで俺はどうしたら?」
「由崎君って虫とか大丈夫?」
「ええ、まぁ、ティッシュ越しなら触れますけど」
「ほんと!?」
「ええ」
なんだか、嫌な予感がする。
「私の部屋に入って駆除してくれないかな?」
「うっ……」
先輩が上目遣いでお願いしてくる。
今まで見ないとしていた無防備な姿が嫌でも目に入ってくる。
印象とは違う可愛らしいピンクのパジャマを着ている。
しかし、風呂上がりなのか少し色気も感じる先輩に目をうるうるさせながら、お願いされたら断れるはずもなく
「任せてください!」
俺は先輩の部屋へと出陣することになった。
これが俺——由崎蒼が西園寺先輩と話すようになったきっかけである……。
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