六話 鯛料理、調理編
「それじゃあ私は鯛を捌くから、由崎君は野菜とか他の食材を切ってて欲しいな」
「分かりました」
なんとなく思っていたが本当に先輩が鯛を捌くんだな。
野菜を受け取ってたものの鯛を捌くと言うのが気になってしまい、思わず先輩の方に視線が釘付けになっていた。
「…………」
先輩は集中しているのか、俺が見ているのにも気が付かずじっと鯛を見つめていた。
「よし!」
そう呟くとまず鱗をとっていく。その手際の良さに驚かされつつその捌く姿に見入ってしまっていた。
鱗を全て取り終わると先輩は一息ついた後、俺の視線に気付いたらしい。
「由崎君。どうかした?」
「あっ! いえ、手際いいなって思って」
「もしかしてずっと見てたの?」
「……はい。すみません。野菜も切らずに」
「いや、そういう事じゃなくってね」
「えっ?」
「……ずっと見られてるのは恥ずかしいかなって……」
先輩はそう俺の顔を見て言ってきたものの、本当に恥ずかしかったらしく、ほんのりと頬が赤くなっていた。
「き、気をつけます!」
「う、うん。それじゃあちゃんと野菜切ってね」
なんだか微妙な雰囲気になってしまったため、気を取り直して野菜を切る事に集中する事にした。
「ふう……」
そして数十分後。
横から大きく息を吐く音が聞こえて、その方向を見てみると額に汗をした先輩と綺麗に三枚おろしされた鯛の姿があった。
「こんな綺麗に捌いてるなんて」
「ふふっ、凄いでしょう」
「これは本当に凄いですよ!」
先輩は少しドヤ顔でそう言ってくるものの、本当に凄いためこれっぽっちのウザさも感じない。勇太郎のドヤ顔はあんなにもウザいと言うのに……。
「由崎君の方はどう?」
「あっはい。もう切れてます」
「どれどれ……うん! 大丈夫そうだね」
先輩からのオッケーをもらって一安心した。今は料理はそんなにしないが、一人暮らしを始めた時に張り切ってた時期があったからなぁ。
それのおかげで野菜の切り方などの基礎は覚えていたみたいで簡単に切ることができた。
「それじゃあこれから本格的にやっていくよ」
「は、はい」
先輩は楽しそうに声を上げたものの、綺麗に捌かれた鯛を見てついていけるか少し心配になってきた。
「煮付けに、炊き込みご飯、味噌汁に唐揚げ。これくらいを作ろうと思うんだけど」
「俺が手伝えそうな事ありますか?」
「うーん……。ちょっと待ってね」
そう言って先輩はペンと紙を取り出して、何かを書き進めていく。
そして書き終わるとその紙を俺に渡してきた。
「これの通りにやれば作れると思うから、それをお願いできるかな?」
「はい」
紙を受け取り見てみると、しっかりとしたレシピが書かれてあった。頭の中の情報をあんな短時間で綺麗にまとめられている事に驚きつつも、作業に取り掛かった。
俺が作るのは味噌汁だった。先に鯛のアラを使って出汁を取る。
アクを取りつつ出汁が取れるのを待つ。
出汁が取れると具材を入れてさらに煮込んで味噌を入れて完成。
「ふう……」
出汁から味噌汁を作るのは初めてだったのが、レシピが丁寧だったため、苦戦する事なく作ることができた。
一口味見をする。
……うん。自分が作ったとは思えないほど深い味がする。
「先輩できました」
「ありがとう! こっちはもう少しかかると思うから後はゆっくりしてて良いよ」
「……わかりました」
少しだけあたりを見渡してからそう返事をした。自分も手伝おうとも思ったのだが、先輩を囲むようにさまざまな調味料や具材が置かれていたため、邪魔になりそうだった。
それに自分が手伝うのもいいけど、先輩の料理を食べたいしな。
「それじゃあ、後は楽しみにしてます」
「うん。任せといて」
先輩はニコッと微笑みかけると、また真剣に無表情に戻り料理を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます