八話 お弁当

「蒼ー! ご飯食べようぜー」


 次の日の学校。お昼休みになり、勇太郎からご飯の誘いが来た。


「今日は学食じゃなくて弁当だから無理だ」

「弁当? 珍しいな。何があったんだよ」

「気が向いただけだ。と言うわけだから」


 俺は言うだけ言うと席を立つ。

 弁当というだけで怪しいのに、昨日の貰い物を詰めてきたため、出来が良すぎて何か勘繰られそうだ。だから、勇太郎には弁当を見せたくないのだ。


 しかし、


「ちょっと待てって。俺も購買でパンとか適当に買ってくるから一緒に食べようぜ」

「はっ? お前学食の親子丼はまってただろ?」

「親子丼はいつでも食べれるけど、蒼の話は今だけかもだからな」

「はぁ……分かったよ」

「よっしゃ! じゃあ早く買いに行こうぜ」


 ニヤニヤとした勇太郎を止めることができないだろうと察して、渋々了承した。


「屋上で食べるなんて初めてだな」

「確かにな……」


 食べるところは屋上になった。

『どうせなら行ったことない場所で食べようぜ』という勇太郎の提案だ。

 屋上は人がまばらにいるものの、座る場所は十分にある。


「あそこのベンチで食べようぜ」

「ああ、そうだな」


 勇太郎が指差したベンチへと向かい腰にかける。


「それじゃあ蒼の弁当を見せてもらおうじゃないか」

「本当にに何も無いから期待するなよ」

「分かってる」


 そう返事をした勇太郎だったが、ニヤニヤした顔は変わらず続いていた。

 はぁと一つため息をつくと、俺は弁当箱の蓋を開ける。


 そこには昨日の残り物である唐揚げと煮物、炊き込みご飯のおにぎりが詰められている。

 それに加えて少しバランスに気を遣ってサラダを入れたくらいだ。


「蒼、こんな凝った料理できるのか? 煮物とか結構めんどくさそうだが」

「ま、まあな」


 俺が作ったと言うのは少しおこがましい気もするが、バレないためだと自分を言い聞かせる。


「それじゃあ頂きまーす」 

「何やってんだ」

「いてっ」


 俺の弁当に伸びていた手を手刀ではたき落とす。


「別に一個くらいくれても良いだろ?」

「……いや、俺が全部食べるんだよ」

「へぇ……」


 先輩が作ったものとは関わらず、美味しいから独り占めしたいのだ。勇太郎にあげる義理もないしな。

 が、その行動が完璧に怪しかった。勇太郎はしめたと言わんばかりの顔でこちらを見ていた。


「分かるぞ。そりゃあ女子からもらった弁当人にあげたくないよな」

「そんなんじゃないって。ただ隣人からの貰い物だ」

「あれ? 自分で作ったんじゃあ?」

「あっ……!」


 完全に自分で墓穴を掘った。


 勇太郎と話しているといつもこうやって誘導されていく。

 自分が甘いのが一番の原因なのだが、勇太郎もあの手この手で誘導してくるため、結局ハマってしまうのだ。


「さあ、どう言うことか説明してもらおうか?」

「はぁ……隣人から貰ったのが本当だ」

「女子か?」

「まぁ一応な。言っておくが、お前が考えてるような展開はないからな」

「本当かー?」

「逆に何があると思ってるんだよ」

「そうだな……」


 勇太郎は考える人のポーズをとって「うーん」と唸っていた。


「こういう設定はラノベに多いけど、学校一の美少女が隣に住んでるみたいな? この学校だったら西園寺先輩だな。同級生じゃないのが残念だけど」

「……よくそこまで頭が働くな」

「と、言うことは図星か?」

「……そんな訳あると思うか?」

「そうだよな」


 俺は一瞬戸惑ったのだが、その様子が勇太郎には俺呆れたと見えたらしい。かなりあっさりと引いてくれた。


「でも相手は誰であれ、お前にもようやく春が来たのか」

「もう秋だぞ」

「そういうことじゃないさ」


 誤魔化そうとしょうもないギャグを言ってみると簡単に流される。勇太郎はそのままの調子で話を続ける。


「その隣人と付き合えるかもしれないって事だよ」

「はぁ……お前なぁ。人の心配の前に自分の心配したほうが良いと思うんだが」


 俺と同じく勇太郎は彼女がいない。勇太郎曰くいてもいなくても変わらないから作らないと言っていたが、心のどこかでは欲しいと思っている筈だ。


「あれ? 言ってなかったっけか。俺先週に彼女できたんだけど」

「は……?」


 いきなり、さも当たり前かのように放たれた言葉は、一瞬にして俺から時間を数秒奪った。


「……冗談だろ?」

「本当だって。今度紹介してやるよ」

「どこの誰だ?」

「他校の女子だよ。とびっきり美人」

「…………」


 勇太郎の様子を見る限り嘘をついているわけではなさそうだ。

 それにしても勇太郎は顔は良いが変人なのだ。よく付き合うまでに至ったなと、嫉妬よりも感心が上回った。


「まあ、そういう訳だ。それで彼女の良さが分かったからお前にも作って欲しいんだよ」

「お前はともかく、俺はなんの取り柄もないただの男子高校生か、それ以下だぞ。そんな簡単に作れるわけがないだろ」

「お前もメガネを外して、髪の毛をセットしたら、ある程度カッコよく見えると思うけどな」

「左様で」

「お前信用してないだろ」

「当たり前だ」


 俺がカッコよく見えるわけがない。中学の頃だってこの容姿が原因で誰一人として、異性と話すことなく3年が過ぎていった。

 今、先輩と話せているだけでもラッキーなんだ。


「しょーがねえな。来週お前ん家行って磨いてやるよ。見た目を変えるだけで相当変わるからな」

「はっ!? そんなことしなくて良いって」

「俺がしたいだけだから気にするな」

「けどさ……」

「大丈夫。隣人さんには変なことは言わないからさ」

「問題はそこじゃないって」


 もし隣に住んでるのが西園寺先輩なんてバレたらなんて言われるか。そこが一番心配なんだ。


「まぁ今週末は予定があるし、来週末までなら準備もできるだろ」

「……分かったよ。だが、変な詮索はするなよ」

「分かってるさ」


 勇太郎も善意でやってくれているのだというのは伝わる。そのため、断るに断れきれない。


(先輩に伝えないといけないな)


 そんなことを考えつつ、唐揚げを口に放り込んだ。

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