十五話 先輩と友人
一旦事情を説明するために、先輩に中に入ってもらうことにした。
俺の横には勇太郎がニヤニヤした様子で座っており、正面には状況を掴めていない先輩が困惑した様子でオドオドしていた。
「取り敢えずこいつは俺の友達で持主勇太郎って言います」
「えっ……? あ、うん。よろしくね?」
「はい。よろしくっす」
「本当に由崎君なんだ……」
「まぁ、そうですね」
そして先輩に事の経緯を簡単に説明した。まだ疑っている様子がありつつも、一応信じてくれたみたいだ。
「そういう事だったんだ」
「驚かしてすみません」
「いや、大丈夫だよ。私こそ何だか悪いことしたかな?」
「先輩は悪くないですよ」
元はと言えば俺が説明し忘れていたのが原因だ。もっと注意深くしておかないといけなかったのに。
「なあなあ、俺にも説明してくれよ」
「分かってるってちゃんとするから黙ってろ」
「ひどい!」
「そうだよ由崎君。お友達にそういう言葉はダメだと思うな」
「……くっ、気をつけます」
「っくく……」
「そこ笑うな!」
先輩と一緒だと調子が狂ってしょうがない。今俺が強く出れないことをいいことに、勇太郎はあからさまにこの状況を楽しんでいる。
「はぁ、俺と西園寺先輩が隣人なのは……」
今更勇太郎に隠しても仕方がない。変に隠しても余計にいじられるに決まっている。
そう思いありのまま全てを話した。
「……俺の妄想当たってんじゃんか!?」
「妄想?」
「先輩は気にしなくていいですよ」
勇太郎に先輩が汚染されても困る。適当に流して話を続ける。
「まぁ簡単に説明するとそういうことだ。変に言いふらしたりするなよ」
「こんな面白……大事なこと言いふらすわけないだろ」
「なんか言いかけたろ?」
「気のせいだ」
わざとらしく咳払いをして言い直す。やはり勇太郎はこの状況を楽しんでいる。
一通りの説明が終わって、どうしようかと悩んでいると勇太郎が口を開いた。
「西園寺先輩。蒼が迷惑かけてないっすか?」
「由崎君にはよくお世話になってるよ。この前なんて雨の中鍵を探しにいってくれて」
「……あぁ、それで。良いやつっすよね。俺も葵が友人なのは誇りですよ」
「だよね!」
二人とも楽しく談笑している横で、いつ先輩が何をやらかすかとハラハラしながら見ていた。
というかこの二人何でこんなに意気投合しているんだろうか。勇太郎が、ありもしないことを吐いているのもあるだろうが。
「……俺はそろそろ帰るかな」
「そうか?」
「嬉しそうにすんな」
しばらく話をした後勇太郎は帰る準備を始めていた。ようやくこの地獄のような状況から抜け出せると思うとそれだけで頬が緩んでくる。
「それじゃあ西園寺先輩もありがとうございました。蒼はお返ししますので」
「お返しってそんなんじゃないよ」
「今はそうですね」
意味深な言葉を言い残してリビングから去っていく。
今日のお礼を言い忘れていたのを思い出し、俺は勇太郎を玄関まで送る。
めんどくさい事にはなったが、一応お礼は言っといたほうがいいだろう。
「今日はなんだかんだありがとな。服はいつ返せば良い?」
「服はお前にやるよ。面白いもの見させてくれたお礼だ」
「本当か? 今日の先輩のことはそれでチャラにしてやるか」
「おうおう、そうしてくれ」
勇太郎はスニーカーのつま先ををトントンと床に当てて、靴を履き終わった。
「それじゃあ先輩と二人っきりを楽しみな」
「……はいはい、そうするよ」
最後に臭いセリフを吐いて家を後にしていった。もう言い返すのもめんどくさくなったので適当にあしらった。
勇太郎のあそこまで楽しそうな顔はそうそう見ることはない。
これからどんだけネタにされるかと思うと、少しゲンナリしてくる。
「持主君なんだか凄い人だね」
「まあある意味すごいやつだと思いますが」
「由崎君は良い友達を持ってるみたいで羨ましいな」
「先輩はたくさん友達居そうですけどね」
「話せる人はいるんだけどね。自分のうちを曝け出すことができる人はそう居ないから」
「ああ、それはそうですね」
先輩の休みの日の姿を見たらほとんどの人が驚くだろう。友達にも言ってないあたり徹底しているんだなと改めて感じさせられる。
「それじゃあ俺はちょっと特別ですね。先輩の秘密も知ってますし」
冗談めかしてながらそんな言葉を放った。
「……そうかもね。ここまで知ってるのは学校では由崎君の他に一人しかいないし」
「そ、そうなんですね!」
冗談で言った言葉だったのだが、肯定されて少し返答に困った。でも、学校で知っているのがそこまで少ないなんて、確かに特別なのかもしれない。
「そう言えば今日訪ねてきたのって何か用があったんですか?」
考えていると少し小っ恥ずかしくなったため、話を変える
「あっ! そうだ! 由崎君に電球変えてもらいたいなって思ってたんだけど」
「電球?」
「うん。私じゃ届かなかったから」
「そういうことなら任せてください」
早速、先輩の家へと向かい電球を取り付ける。
俺が椅子の上に乗ってようやく届くくらいの場所だったため、これは先輩は届かないななんてことを思いつつ取り付けた。
「取り付けれましたよ」
「ありがとう! 本当に助かった」
「これくらいは余裕ですよ」
「また由崎君に頼もうかな」
「これくらいなら何回でもやりますよ」
先輩の役に立つのならこれくらいの事なら何度でも喜んでできる。
少しは先輩の料理を期待している気持ちもないとは言い切れないが、先輩の嬉しそうな表情を見るのが好きなのだ。
「俺はそろそろ帰りますかね」
「ちょっとだけ待って!」
「えっ? まだ何かありますか?」
もう電球をつけ終わってやることは無いはずだけど。
「……っても…………いいよ」
「えっ?」
ごもごもと言いどもって上手く聞こえなかったため、思わず聞き返してしまう。
すると先輩は熟したりんごのように顔を真っ赤に染め上げて
「今の由崎君とってもカッコいいよ!!」
そう大きな声で叫んできた。こんなことを言うために引き留めてくれたのか。
「ずっと言おうと思ってたんだけど……恥ずかしくて……」
「あ……ありがとうございます……」
モジモジと恥ずかしそうに体を擦らせている姿は本当に可愛かった。もし、その姿でお願いされたら本当に何でもやりますと言ってしまいそうなほどだった。
そんな先輩も目の前にしたら動揺するに決まっている。俺も声を震わしながら何とかお礼を言うだけが限界だった。
「……それだけだから、また明日ね」
「……はい。さようなら」
「うん……」
良い雰囲気のようで少し気まずい雰囲気のまま先輩と別れた。別れ際の先輩は少し嬉しそうな表情で、なぜだがその表情がとても印象に残った。
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