patriot

フカ

第1話 303号室


 マダラの電話が延々と鳴っている。せっかくいい夢を見ていたのに俺はそれで目が覚めた。南の島で、元気な俺がどデカいクルーザーを運転していたのに、フェードアウトの逆みたいに通話アプリのマヌケな音がテケテケテケテケ被ってきて最悪だった。

 ブランケットをハネて起きると、俺のベッドのはじっこにマダラのスマートフォンがあった。部屋に奴はいない。けど、廊下の右手の洗面所から歯を磨く音がする。

 ケースもなにもついていないスマホを拾うと、液晶に親父の名前があった。俺の親父だ。つい、歯が鳴る。腹が立つから電話は勝手に切った。直ぐにメッセージが届く。話がある、の四文字がぜんぶ見えた。

 サイドボードのペットボトルを掴んで窓辺で飲んだ。石造りの、映画に出てくるようなアパートメントに挟まれた階下の道を、黒いコートの人が何人も歩いている。この国は年の半分は寒いし、残りは暑い。今は寒い。

 水を飲み干すとマダラがでてきた。ライトグレーのスウェット上下に水しぶきが飛んでいる。腕を差し出してくるから、空のボトルを振った。マダラは完璧に綺麗な顔を、歪めたけど綺麗なままだった。








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