第8話 写真
親父が死んだ日と同じように、ハマーを運転して家についた。晴れて、空気は乾燥していて、家はよく燃えそうだった。
よりにもよって等々力は俺の部屋で死んでいた。うつ伏せなった体の頭部が破裂していてガン萎えした。カエルは吹き飛んでいなくなり、葡萄は血まみれで茶黒くなっている。
「弾がデカすぎだろ」
「だよね」
「なんでこれで撃ったの」
「むかしさあ、スイカ割りしたじゃん。三人で」
何を言い出すんだと思った。マダラはこっちを見て続けた。
「海でも砂浜でもなくって、等々力が買ってきた水槽につかう砂をさあ、床にまいてスイカ置いて割ったじゃん」
「この部屋でな」
「でみんなで脳みそじゃーんてメッチャ笑ったじゃん」
「あー」
「等々力思い出すかなあって」
マダラはしゃがんで、等々力の靴を脱がした。
ウルフカットの襟足から、ネックレスのチェーンが見えた。
俺はなんにも言えなくなって、しばらくぼうっとした。思い出したように、視線をくるくるさせると、あめ色のサイドチェストに目が止まった。
等々力をまたいで引き出しを開けて、むき出しで仕舞われていたニ枚の写真を抜いた。
焼けて、縁がもろくなった写真のなかに、ガキの俺とマダラと、マットと、まだ髪がある等々力がいた。
眺めて、不思議に思う。なんとなく裏返すと、日付だけがちいさく書かれていた。親父の筆跡で。
しんどくなって、目をつむった。片目だけあけて薄ら見ても、やっぱり親父の字だった。
もう一枚の写真には、七分咲きぐらいの桜並木が写っている。
裏返す。場所と日付。母親の字。彼女が生まれた近くの、橋のたもとだった。
俺はもうくたびれたから、しゃがんで、腕に額を置いた。歯を軽くだけ噛んで耐えた。マダラが写真を、引ったくりに来るだろうかと思ったけど来なかったから、気が済むまでそうした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます