第7話 ぜん
等々力が死んだ。頭になってから37日目のことだった。
殺したのはフツーにマダラだった。もうなんだか、最近いろいろありすぎて、俺の頭のキャパシティを完全に超えていたのでなんで?とだけ聞いた。
マダラは、等々力がコーンスープを入れて持ってきたジップロックを俺に渡して、一度取り返してフタを開けた。
もう一度俺に返ったプラスチックの容器の底に、小さく、白い結晶がみえた。
キャパシティが余計に減って、うめき声にしながらため息をついた。
「なんで?」
「これもみて」
あぐらの上に紙束が置かれた。見覚えがだいぶあった。親父の死因のタブー事業の帳簿が、十日前の日付で印刷されてあった。
なんか変な音がするな、そう思ったけど俺の声だった。えに近いあ、に、濁点がついた音が口から勝手にもれる。
確かに俺も、マダラも、色は違うがそこそこ邪魔なんだろう。矢の一本より安い時代から、命の値段は変わってない。
「他のみんなは?」
「納得いかないみたいだったり、かかってきた人はみんな倒した。組はとりあえず解体になって、家はまだ燃やしてない」
「なんで?」
「エッ燃やしたほうが良かった?」
「いやなんで燃やそうとしたの」
「等々力がまだ向こうにあるから、ついでになんもなくなったほうがいいかなあって思ったから」
「……そ、」
フタをマダラから受け取って、ジップロックをしめた。紙束を見る。親父ほどではなかったけど、等々力もなかなかガッポリ稼いでいて、なんでみんなこうなるんだろな、と思った。もう少しぐらい間あけろよ、とも。
あんまり顔も覚えてないけど、たしかやわらかい美人だった。俺が5歳のときに湖に沈んだ母親も、親父と一緒になる前はたぶんまともだったはずなのに、どんどんズレておかしくなっていった。最初が演技だったのかもしれないし、喰うにも困る暮らしから、財布の中身がぎちぎちになれば、みんなそうなるのかもしれない。親父も、わかってやったのかもしれない。貧困あがりの母親がうちの金をありったけくすねて、別の男と国を出ようとしたとき、親父はずいぶん楽しそうだった。母親を沈めた湖で釣った魚を、カレー味のムニエルにして、等々力にむりやり喰わせているときも。
「寝るわ」限界だった。
「じゃあ家燃やすの明日でいい?」
「いいよ」
ベッドに沈む。マダラがきのう盛大にこぼした、新品のルームスプレーの匂いがする。
どことなく、寺院のような香りがしたから、ああ丁度良いなと思う。
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