第6話 ミネストラ


 親父の生首を見てから二十日。マダラが勝手にいじって買ったコインが+125%になり、俺は自分の存在意義まで完全に無くした気がした。金なんて誰でも稼げるし、金があっても人は死ぬ。俺はまたベッドの足側に頭を投げて、さかさまになった世界のはじで、パソコンのなかのバカみたいな利益になった取引画面をマダラがたたんだ。

 今日はなぜだか奇妙に暑い。きのう、マダラがコーラを買うと出てったときにはダウンを着ていた。今日は半袖。気候の情緒が年々おかしくなる。


「ミネストローネたべる?」マダラが聞いてくる。

「等々力が作ったやつだろ。いいよあれソーセージ死ぬほど入ってるからお前食べなよ」

「エッソーセージ嫌いだっけ?」

「嫌いじゃない。でもあれはミネストローネじゃなくてソーセージだから食べたくない」

「わぁかんないなあ」

 マダラが台所に消えていった。


 頭になって、忙しくなったはずなのに、三日ぐらいにいっぺん、等々力が料理を作って持ってくるようになった。ピザ、スパゲティ、野菜を煮たやつ。わりとなんでも出てきたけど、サラダにリンゴが入っていたり、野菜を煮たやつがやたらに甘かったり、全体的に老人が作る食事みたいで、ぬるい恐怖があった。


 マダラが器をふたつ、手にして戻ってきた。ひとつ渡されたから、半身を起こして中を見た。輪切りのソーセージがぜんぶさらわれたただの赤い汁のなかに、パンが二切れ浮いていた。


「なにこれ」

「ミネストローネだよ」

 ベッドに座ったマダラの器はほぼソーセージだった。

「おれソーセージすきだし」

「限度があるだろ」

「パンいいやつだよ」

「へえ」

 トマトスープに浸った、焦げ茶色の焼き目のパンは、小麦のいい香りがする。噛むと、皮がパリパリしていておいしい。スープは、香辛料が効きすぎていて馴染みのない味がした。


「草の味がする」言うと、草食べたことあるの?と返ってくる。

「野菜はみんな草だろ」

「そーかなあ」

「、たぶん」

 トマトは草じゃない気がしたので、言い直した。

「やっぱり」

 マダラが笑って口を開けるから、ソーセージのかけらがベッドに落ちる。






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