第14話 地区


 親父が死んだら、俺は助かるんだと思ってた。

 なにか素敵なパワーのちからで、ぜんぶ終わって俺は生まれ変われる。ある意味での〘強い〙男しか生き残らないこの国や、自分の造り。ひたすらに受け継がれる、遺伝子からの暴力。過去。資本主義。そんなものからぜんぶぜんぶ開放されて、世界が変わると思い込んでいた。

 けど、相変わらず俺は出来が悪いし、目の色も親父と同じだし、スパゲティは三回に一度失敗する。今日は湿度が高い。


 久しぶりにテレビをつけた。すると、どの局でも国営放送が流れていた。治安の悪さ、もといまつりごとのヘタクソさが、いよいよ極まってきている。映像のなかで、3ブロック先の教会が燃やされていた。そんなとこから、はるかに離れた地区に住んでいそうな、マジのボンボンの顔をしているキャスターが眉間にシワを寄せている。パックのミルクのストローを極限まで吸って、テレビを消した。


 腰を降ろしたベッドのはじで、あお向けになったマダラがスマホゲームをしていた。デカい音で、十年前に流行ったゲームソフトのメイン・テーマが鳴っている。

 マダラがそれに鼻歌でふわふわ合わせていた。当たり前のように上手かった。


 不思議だったし、悲しかった。なんでこいつはここに居るんだろう。思考がミリしかないようなやつしかいないこの地区に。上の地区に生まれたら、誰の脳みそも見ないままで、キャスターになっていたかもしれないのに。

 ゲームの中と、外で同時に、車がぶつかったみたいな音がしたから、アタマがくらくらする。







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