第15話 子ども


 俺たちが子どものころ、同じ子どもを殺していたのは、子どもの価値が低かったからだ。虫を殺すだろ、あれとおなじ。雑草は抜くだろ、あれだ。

 真っ当な、育ちのいい、金持ちの子どもは虫じゃない。人を殺して金を稼ぐ親がある子どもは虫だ。なぜなら彼ら彼女らもまた、大人になったら同じことをして金を稼ぐから。そして親父の商売敵になる。俺は親父に逆らえなかった。だから殺していた。親父が生きているうちはそれでよかった。


 今日もまた子どもが夢に出る。自分の親が、誰かを殺して毟った金を食べている。他人の内臓を替えた金で、服や石鹸やクッキーを買う。きれいなフリルが何重にもついた、ボリュームのあるスカートだけがくるくる回る。三周すると、ワンピースになった。ピンクのゆめかわワンピースが止まり、絞り出されてくるみたいに、茶色い皮膚を被った子どもが裾から袖から手足を出した。

 最後に顔がゆっくり出てきた。落ち武者みたいに、頭頂部をぽっかり切り取られた小さい頭蓋のうえで、脳みそがぷるぷる横揺れする。と、彼女の後ろから現れた別のゆめかわワンピースを着た子どもが口をあんぐりあけて、脳みそを飲み込む。ぼうっとそれを見る。次の子ども、そのまた次と、順に脳みそを飲み込んでいった。逆マトリョーシカみたい。積み重なった茶色い子どもは上目遣いで俺を見ている。


 どうも、なにもしなかった。泣きもしないし、謝らない。耳触りのいいなにかも言わない。蹴散らしもしないし、手ぶらだったけど、髪を撫でたりもしなかった。みんなもう死んだから。俺はなにもしない。

 なのに涙だけ流れた。


自分を、偽善だと思うことが偽善だった。

この国の人間の、思考がいつも一次で止まるのは、それ以上考えると自分のせいになるからだろう。

自分のゴミさを目の当たりにするのはつらかった。

ゴミのくせに運だけは良い自分が恥ずかしかった。

俺がいま生きているのは親父と、マダラと、等々力のおかげだった。

親父が罪を犯した金で、俺はぬくぬくと生きていられた。

マダラが犬を撃ち殺したから、俺は神の世界に居られた。

なにもしなかった俺のかわりに、等々力がぜんぶ被ったからだ。

コーンスープのジップロックの底、へばりついた結晶は、わずかだけだが小さかった。

だから俺はいまデカいベッドで、夕飯を食べ眠り夢を見て、頭をまるく切り取られずにこちら側で泣いているんだ。


「ごめん」


偽善だと分かっていたけど口から漏れた。

茶色い子どもが上から順に脳みそから口を離して、パカパカ横に並んで整列した。

右から順に奴らは俺の顔に、胸に、触れて、背後の暗闇に消えていった。

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