怪ノ村 其乃壱 子泣き村④

「おやおやおや、どちらに向かわれるのですか?。御客人。」


老人達に取り囲まれ。身動きとれない清司の前に卑しい笑みを曝す老人が前にでる。


「いえ、お暇しようと。泊めさてくれて感謝致します。」


清司は感謝を述べ別れ告げて惚けようとする。


「いやいやいや、一泊二泊三泊でも泊まんなせえ。遠慮することねえだ。」


家に泊めさせてくれた嵓爺が親しみのある親切な笑顔を浮かべる。しかしそんな親切溢れる笑みさえ清司は不気味に覚えた。


「いいえ、もうお暇します。お世話になりました。」


清司の頬に冷や汗が流れる。

老人達の真心のある親切心さえも清司は悪意に感じられた。

老人はゴニョゴニョと何やらそひそ話を始める。まるで何かの算段をしているかのようだった。ただしそれが自分の生き死に関わることなんだと清司は何故だが直感で否応に理解できた。


「ほんじゃあ、赤子様に逢わしてやるべ。」

「赤子様は我等が崇める神様じゃ。」

「赤子様に御目通り出来るのは有難いことなんじゃぞ。」


来た!。

赤子様の話は夫と子を亡くした母親から聞いている。赤子様と面会すれば確実に五体満足喰われるだろう。何とか老人を隙をついて逃げなければ。

しかし老人の手にもつ提灯の他の何やら鈍い光を放つ刃物のようなものを持っていた。清司は薄暗い夜更けに老人達の手元に目を凝らすとはそれは鍬やら鎌、鉈などの農具だった。しかも微かに鍬、鎌、鉈の刃には赤く黒ずんだ血のりのような跡が僅かに残っていた。

こいつらもしかして逃げた客人を農具で殺しているのか?。清司は得体の知れない老人達の狂気に恐怖と寒気を覚えた。


「ささあ。赤子様がお待ちですじゃ。」

「早う。きんしゃい」


糞·····逃げられそうにない·····

清司は悔しげに唇をかむ。。


『清司、ここは大人しくついていこう。』

ワラズマ?。

懐に納めていた位牌箱から微かに声がもれる。


「良いのか?。」


村の非業な行いにスルーを決めていたワラズマの心境の変化に清司は困惑する。


『最早避けられぬだろう····。』

「何独り言っちょるけえ!。」


しびれを切らした老人の一人が怒鳴る。


「解りました······。赤子様に逢います。」

「ほうかほうか、ほんじゃ参ろうか。」


嵓爺は嬉しそうに頷く。

老人達に清司は連行される。

身体検査されずに縛られるずそのまま連行れた。老人達は反撃されることなど微塵も思ってない様子だった。

老人達に連行され農道を進み。小さな小山に到着する。小山には頂上まで長い石段が続いていた。

老人達はそのまま足軽に石段を昇る。

俺の前後に見張るように老人達は付き添っていた。

俺は前にいる村の老人達に続いて長い石段を昇る。

はあ·····はあ·····

小山の石段は思ったよりも長かった。

石段の先にには鳥居が見えた。あの先に赤子様がいるのだろうか?。

清司は疑問に思った。

そもそも赤子様とは一体何なんだろう?。老人達の悪行に加担する化け物?。村の老人どもは赤子様は自分達の神様と言った。閉鎖的な村によくある道祖神、土着神だろうか?。しかし神様ならなんでこんな老人達の悪行に加担するのだろうか?。こんな残忍で残酷な所業を何故ここの神様は許すのだろうか?。贄を要求する神。村が奉る神様の話によくある話ではある。しかし、それは村の飢饉や飢餓を防ぐため仕方なく水神や山の神に生け贄を捧げる話が多い。しかし、この村の老人どもは立ち寄る人間を騙し、あるいは事故を引き起こし。外の人間達を贄にしたり生まれたばかりの赤子を母親から奪い村の老人どもは己の食料にした。

子供塚を作って埋葬しているようだが。だが泊まった家の中にいた無数の水子の霊達。何故だか清司はこれらが密接に繋がっているような気がしてならなかった。


あ”あ“あ“あ”あ”ああ””~~~~~~ん


低い低音の不気味な赤子の唸り声が鳥居の先から聞こえる。


「おお、赤子様が待ちわびてあられるだあ。」

「早う、捧げにゃあならんとお。」


老人どもは確実に俺を赤子様の贄にするつもりだろう。こうしてこの村の老人どもは立ち寄ったよそ者や通りすがりの旅行者を罠にかけ騙し犠牲にしてきたのだろう。

清司はふつふつと怒りがわいてきた。罪のない人を殺し。母親から我が子を奪い己の腹を満たすために殺した。こいつらは人の皮を被った紛れもない外道である。


「あんたらは何でこんなことをする?。」


突然大人しかった男が問い掛ける。老人一同達は中年の男性の質問の意味は理解出来なかった。


「あんたらはしたことは俺は知っている。あんたらはた旅行者や通りすがりの人を騙し。殺し赤子を母親から奪って殺して喰っていることも知っている。何故そんなことをする?。何故そんなことをできる?。答えろ!!。」


今の清司には恐怖はなかった。あるのはそんな理不尽を与える村の老人達に対する激しい怒りだった。

笑顔であった老人の表情は一瞬で豹変する。それは醜悪な悪意を持った醜い人のエゴをさらけ出しだすようなそんな表情であった。


「あの女から聞いたんかあ?。」

「全くよそ者はこれだから困る。」

「水子達の慰め役として生かしておいとるのに。ほんに恩知らずが·····。」


老人達は不機嫌に皆顔を歪める。


「お前ら······。」


老人達に全く反省の色も悪びれる様子みせない態度に清司は更に怒りが増す。


「わしらがよそ者を襲うのは生きるためよ。」

「生きるためだと?。」


清司の眉間が険しく寄る。


「お前さんは飢えをしっとるか?。腹の背中がくっつくほどの飢えを。喉が渇き。食べものさえ満足たべられぬ。そんな時代に儂等の村では餓死者がたえんかった。じゃがら儂等は考えた。どんな手を使っても生きる残ると。」

「手始めに儂等は村の若いもんに赤子を提供させた。若い者は優秀な働き手じゃ。じゃけん働けん赤子は食料とすることを提案したんじゃよ。」

「若者衆はそりゃあ猛烈な反対にあったが。村の存続ということで黙らせた。」

「儂等の村では老人はいたわりねぎらい敬うのが習わしじゃ。じゃから逆らうもんは一切いない。」

「若者は赤子を産み。それを儂等が喰らって生きてきた。」

「じゃが若者衆は村から逃げよった。」

「ほんに恩知らずよ。あやつらが誰のおかげで生きとったと思うとる。」

「じゃがら儂等は外からくる人間に獲物にしたんじゃよ。」


ニタリ

老人は不気味な笑み浮かべる。


「く、狂ってる·······。」


村の若者が誰一人いないのは村から逃げたからだ。この老人達の異常性に気付き。尚且つ自分の我が子を毎年奪われるのに耐えられなかったのだ。しかし清司は疑問に思った。赤子様だけが話に出てこない。赤子様はこいつら老人達の悪事に加担しているのじゃないか?。老人達の話に赤子様の話が一切ないのはどういうことだ?。


「ほれ、着いたぞ!。」

「赤子様がお待ちじゃ。」


石段の頂上に着いた鳥居を潜るとそこに社の前に鎮座する巨大な赤ん坊がいた。赤子の頭部や顔は目や口が崩れおり。頭部にはいくつも巨大な口が涎を垂らしている。

 

あ”あ”ぎゃあああああ~~~~~~~ん。


社から赤子の嗚咽交りの嘶きが響く。。

しかし清司はこの赤子様の鳴き声が何処か女性の悲しみ満ちた金切り声にも聴こえた。

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